マイナーキーの表現力がアップ!3種類のマイナーコードの実践ガイド
音楽理論実践ノートの記事をお読みいただき、ありがとうございます。
コード進行やスケールについて学ぶ中で、「マイナー」という言葉に触れる機会は多いと思います。短調の音楽は、長調とは異なる独特の雰囲気を持っていますが、一言で「マイナー」と言っても、実はいくつかの種類があり、それぞれが異なる響きや特徴を持っています。
これらの違いを知り、使い分けることで、マイナーキーでの作曲や演奏の表現の幅を大きく広げることができます。
この記事では、マイナーキーで特によく使われる3種類のコードについて、それぞれの特徴と、作曲や演奏にどのように活かせるのかを、分かりやすく解説していきます。
マイナーキーの基本的な響きと3つの種類
マイナーキーは、長調に比べてどこか物悲しい、あるいはクールな響きを持つと言われます。その基本となるのは、ドレミファソラシドのような長音階(メジャースケール)とは少し異なる音の並び、短音階(マイナースケール)です。
そして、この短音階には、主に以下の3つの種類があります。
- ナチュラルマイナースケール
- ハーモニックマイナースケール
- メロディックマイナースケール
これらのスケールから作られるコードも、それぞれ異なる響きを持っています。まずは、それぞれのスケールと、そこから生まれる基本的なコードについて見ていきましょう。
分かりやすくするために、ここでは「ラ」の音を主音とするAマイナーキーを例に説明します。Aナチュラルマイナースケールは「ラシドレミファソラ」という音の並びです。
ナチュラルマイナーの特徴と実践的な使い方
ナチュラルマイナースケールは、長音階の第3音、第6音、第7音を半音下げた音階です。Aナチュラルマイナーでは「ラシドレミファソラ」となります。これは、同じ「ドレミファソラシド」の音を使っているCメジャースケールと同じ音の並びです(Cメジャーの「ド」から見て3度下、Aから見ると短3度上のCメジャーと平行調の関係です)。
このスケールから作られるダイアトニックコードは以下のようになります。
| 度数 | コード | 構成音 | 響き | | :--- | :---------- | :----------- | :------- | | I | Am (ラドミ) | 短三和音 | 主音の安定 | | II | Bm(b5) (シレファ) | 減三和音 | 少し不安定 | | III | C (ドミソ) | 長三和音 | 明るい響き | | IV | Dm (レファラ) | 短三和音 | サブドミナント的 | | V | Em (ミソシ) | 短三和音 | ドミナント的だが終止感が弱い | | VI | F (ファラド) | 長三和音 | サブドミナント的 | | VII | G (ソシレ) | 長三和音 | ドミナント的だが終止感が弱い |
響きの特徴:
ナチュラルマイナーキーのコード進行は、素朴で自然な響きを持っています。悲しい、憂鬱な雰囲気を出すのに適していますが、V度のEmが短三和音であるため、Amへの終止感が少し弱く感じられることがあります。
実践的な使い方:
- コード進行: よく使われるコード進行としては、「Am - Dm - Em - Am」や「Am - F - C - G」などがあります。特に「Am - Em」や「Dm - Am」のようなシンプルな動きはナチュラルマイナーらしい響きです。
- メロディー: スケール上の音を使ってメロディーを作ります。素朴で抒情的なメロディーに向いています。
- 楽曲: フォークソング、クラシック音楽の一部、ゲーム音楽などでよく使われます。
ハーモニックマイナーの特徴と実践的な使い方
ナチュラルマイナーのV度(属和音)が短三和音(Em)であるため、主和音(I度のAm)への強い終止感を得にくいという特徴がありました。これを解決するために、V度のコードを長三和音(E)や属七和音(E7)にしたい、という要望から生まれたのがハーモニックマイナースケールです。
ハーモニックマイナースケールは、ナチュラルマイナースケールの第7音を半音上げた音階です。Aハーモニックマイナーでは「ラシドレミファソ♯ラ」となります。
このスケールから作られる主要なコードを見てみましょう。
| 度数 | コード | 構成音 | 響き | | :--- | :---------- | :------------- | :--------- | | I | Am (ラドミ) | 短三和音 | 主音の安定 | | IV | Dm (レファラ) | 短三和音 | サブドミナント的 | | V | E (ミソ♯シ) | 長三和音 | 強い終止感 | | V⁷ | E7 (ミソ♯シレ) | 属七和音 | 非常に強い終止感 | | VII | G♯m(b5) (ソ♯シレ) | 減三和音または減七和音 | 不安定、解決を促す |
響きの特徴:
ハーモニックマイナー最大の特徴は、第7音が半音上がったことによる、I度(Am)への強い引力です。特にV度のEやE7コードが生まれることで、長調の終止形(V7→I)のような力強い終わり方(V→ImやV7→Im)が可能になります。また、第6音(ファ)と第7音(ソ♯)の間が1音半(増2度)離れていることも特徴的な響きを生み出し、エキゾチック、オリエンタルな雰囲気を感じさせることがあります。
実践的な使い方:
- コード進行: 「Am - Dm - E7 - Am」という進行は、ハーモニックマイナーの代表的な使い方です。特に楽曲の最後にこの終止形を使うことで、安定した解決感を得られます。V7コードだけでなく、Vの長三和音(E)もよく使われます。
- メロディー: メロディーに第7音(ソ♯)を取り入れることで、和音との調和や、Imへの解決感を強めることができます。増2度音程(ファとソ♯)を意図的に使うことで、特徴的なフレーズを作ることも可能です。
- 楽曲: クラシック音楽、特にバロック期以降の短調の楽曲で広く使われます。ロックやメタル、ゲーム音楽でも緊張感や劇的な雰囲気を出すために使われます。
メロディックマイナーの特徴と実践的な使い方
ハーモニックマイナースケールは、第6音(ファ)と第7音(ソ♯)の間に増2度という広い音程があり、メロディーとして歌いにくい(滑らかさに欠ける)と感じられる場合があります。この増2度を解消し、より滑らかなメロディーラインを作るために生まれたのがメロディックマイナースケールです。
メロディックマイナースケールには、上行形と下行形があります。
- 上行形: ナチュラルマイナースケールの第6音と第7音を両方半音上げた音階です。Aメロディックマイナー上行形は「ラシドレミファ♯ソ♯ラ」となります。これは、長音階の第3音だけを半音下げた音階と同じです(Aメジャーの第3音を半音下げた音階)。
- 下行形: ナチュラルマイナースケールと同じ音階です。Aメロディックマイナー下行形は「ラソファミレドシラ」となります。
響きの特徴:
メロディックマイナー上行形は、長音階のように滑らかで、明るさも少し感じさせる響きです。下行形はナチュラルマイナーと同じ素朴な響きに戻ります。この上行と下行で音階が変わる点が大きな特徴です。
実践的な使い方:
- メロディー: 文字通り、メロディーラインを滑らかにするために使われます。特に上昇するフレーズでメロディックマイナー上行形を使うことで、スムーズな流れが生まれます。下降するフレーズではナチュラルマイナーの下行形を使うことが多いです。
- コード: メロディックマイナー上行形から作られるコードも、非日常的で洗練された響きを持つものがあります。特にジャズでは、様々なコードの上でメロディックマイナースケールを変形させたものをアドリブに使うなど、重要な役割を果たします。例えば、Aメロディックマイナー上行形からは、V7コード(E7)以外にも、IV度にあたるD7sus4(b9)のような響きのコードが生まれることもあります。
- 楽曲: 主にメロディーを重視する楽曲や、ジャズ、フュージョンなどで使われます。
3種類のマイナーコードを組み合わせて使ってみましょう
これらの3種類のマイナーコードは、必ずしも単独で使われるわけではありません。一つの楽曲、あるいは一つのコード進行の中で、場面に応じて使い分ける、あるいは組み合わせて使うことが一般的です。
例えば、
- 基本のコード進行はナチュラルマイナーで作るが、終止感を強めたい最後の部分だけV7コード(ハーモニックマイナー由来)を使う。
- メロディーラインを滑らかにしたい上昇フレーズではメロディックマイナー上行形の音を使うが、下降フレーズではナチュラルマイナーの音を使う。
- 特定のコードの上でアドリブをする際に、ハーモニックマイナーやメロディックマイナーのスケールを選ぶ。
このように、3種類のマイナーコードは、マイナーキーの多様な表情を作り出すための「道具」として捉えることができます。
作曲・演奏への実践的なヒント
- コード進行作成:
- まずは基本的なナチュラルマイナーのコード進行を作ってみましょう。
- 次に、終止感を強めたい箇所にハーモニックマイナー由来のVやV7コードを導入してみましょう(例: Am - G - C - F → Am - Dm - E7 - Am)。
- たまにVII度の減七和音(AマイナーならG♯dim7)を挟むと、さらに劇的な響きになります(これもハーモニックマイナー由来です)。
- メロディー作り:
- 作ったコード進行に合わせて、まずはナチュラルマイナースケールでメロディーを乗せてみましょう。
- 終止したい部分の直前で、ハーモニックマイナーの第7音(Aマイナーならソ♯)を使ってみましょう。Imコード(Am)の主音(ラ)へ解決する流れが生まれます。
- 上昇する滑らかなメロディーを作りたい箇所で、メロディックマイナー上行形の第6音・第7音(Aマイナーならファ♯、ソ♯)を使ってみましょう。
- 演奏・アドリブ:
- マイナーキーの曲を演奏する際に、コードがVやV7になったら、ハーモニックマイナースケール(またはその一部)を意識してアドリブしてみましょう。特に第7音(Aマイナーならソ♯)の響きが重要です。
- 速いパッセージや滑らかなフレーズを弾きたい場合は、メロディックマイナー上行形を使ってみるのも効果的です。
- DAWでの活用:
- 多くのDAWにはスケール表示機能があります。マイナーキーの曲を作る際に、これらのスケールを切り替えて表示させながらMIDIを打ち込むと、意図した響きを作りやすくなります。
- 特にハーモニックマイナーやメロディックマイナーのスケールは、DAWのスケール設定機能で簡単に呼び出すことができます。
まとめ
この記事では、マイナーキーにおける3つの主要な音階と、そこから生まれるコードの特徴、そしてそれらを音楽制作にどう活かすかについて解説しました。
- ナチュラルマイナー: 素朴で抒情的。基本的なマイナーの響き。
- ハーモニックマイナー: 第7音が高く、V7コードを生み出し、強い終止感やエキゾチックな響きを持つ。
- メロディックマイナー: 上行・下行で音が変わり、メロディーを滑らかにする。ジャズなどでも重要。
これらの違いを知ることは、マイナーキーでの表現力を飛躍的に向上させるための重要な一歩です。ぜひ、実際に楽器を手に取ったり、DAWを使って、それぞれのマイナーコードやスケールの響きを体験してみてください。
3種類のマイナーを理解し使いこなすことで、あなたのマイナーキーでの音楽が、より豊かで深みのあるものになるはずです。