マンネリ脱却!曲想を豊かにする転調の実践ガイド
音楽理論実践ノートをお読みいただき、ありがとうございます。このサイトでは、作曲や演奏にすぐに役立つ、実践的な音楽理論を解説しています。
今回のテーマは「転調」です。曲を聴いていて、途中で「おっ、雰囲気が変わったな」「盛り上がってきたぞ」と感じることがありますよね。その変化の多くは、「転調」によってもたらされています。
転調と聞くと難しそうに感じるかもしれませんが、基本的な仕組みを理解すれば、あなたの音楽に新しい展開や感情表現を加える強力なツールとなります。ここでは、転調の基本をやさしく解説し、すぐに試せる実践的な方法をご紹介します。
転調とは?なぜ転調するの?
まず、音楽における「キー(調)」とは、その曲の中心となる音(主音)と、そこから構成される音階のことです。例えば、ハ長調(Cメジャー)なら、ド(C)が中心で、ドレミファソラシドという音階を使います。
転調とは、曲の途中で、この中心となるキーを別のキーへ移すことです。例えば、ハ長調で始まった曲が、途中でト長調(Gメジャー)に変わったり、イ短調(Aマイナー)に変わったりすることです。
なぜ転調をするのでしょうか?
- 変化と展開をもたらす: 同じキーで長く曲が進むと、単調に聞こえてしまうことがあります。転調することで、曲に新鮮な響きや新しい流れを生み出すことができます。
- 感情を表現する: 転調によって、曲の雰囲気をガラッと変えることができます。例えば、明るい曲調から急に暗くなったり、静かな曲調から壮大になったりするなど、感情的なコントラストを表現するのに有効です。
- 盛り上がりを作る: サビなどで一時的にキーを上げると、聴き手に高揚感や解放感を与えることができます。
やさしい転調の方法:共通コードを使った転調
転調にはいくつかの方法がありますが、ここでは初心者の方でも比較的実践しやすい方法をいくつかご紹介します。
一つ目の方法は、元のキーと新しいキーに共通して含まれるコード(これを「ピボットコード」と呼ぶこともあります)を経由してスムーズに転調する方法です。
例えば、ハ長調(Cメジャー)からト長調(Gメジャー)へ転調することを考えてみましょう。
ハ長調の主要なコード(ダイアトニックコード)は次の通りです。 C | Dm | Em | F | G | Am | Bm(b5)
ト長調の主要なコード(ダイアトニックコード)は次の通りです。 G | Am | Bm | C | D | Em | F#m(b5)
この二つのリストを見比べると、共通するコードがいくつかありますね。 例えば、Am(ラドミ)、C(ドミソ)、Em(ミソシ)などです。
これらの共通コードを「橋渡し」として使うことで、自然な転調が可能になります。
実践例1:共通コードを利用した転調
元のキー:ハ長調(Cメジャー) 新しいキー:ト長調(Gメジャー)
オリジナルのコード進行(ハ長調):
Am | Dm | G7 | C
このままハ長調で終わっても良いのですが、ここでト長調へ転調してみましょう。
ハ長調のコード進行の最後のC
コードは、ト長調においても共通コードとして存在します。
このC
コードを、ハ長調の主和音であると同時に、ト長調のサブドミナント(IV)コードであると解釈し直します。そして、このC
コードからト長調のドミナント(V)コードであるD7
へつなぎ、新しい主和音であるG
へ着地させます。
全体のコード進行例:
Am | Dm | G7 | C
(ここまでハ長調)
C | D7 | G
(ここからト長調へ)
このように、C
コードを共通コードとして挟むことで、ハ長調からト長調への転調がスムーズに行えます。
DAWでの実践: MIDIで入力する場合、転調したい箇所のコードから、新しいキーのダイアトニックコードや機能(この場合はGメジャーのIV→V→I)を意識してコードを打ち込んでみましょう。共通コードの箇所で、新しいキーのコードリストを参考に切り替えるイメージです。
やさしい転調の方法:新しいキーのドミナントコードを使う
二つ目の方法は、転調先のキーのドミナント(V)コードを先行させる方法です。ドミナントコードはそのキーの主和音(I)へ強く解決したがる性質(終止感)を持っています。この性質を利用して、聴き手の耳を新しいキーへ自然に誘導します。
例えば、ハ長調(Cメジャー)からヘ長調(Fメジャー)へ転調することを考えてみましょう。
ヘ長調のキーのドミナントコードは、ヘ長調の5番目の音(ド)から作られるドミナントセブンスコード、つまりC7
です。
実践例2:新しいキーのドミナントを利用した転調
元のキー:ハ長調(Cメジャー) 新しいキー:ヘ長調(Fメジャー)
オリジナルのコード進行(ハ長調):
Am | Dm | G7 | C
このハ長調の進行の後に、ヘ長調のドミナントであるC7
を挟み、ヘ長調の主和音であるF
へつなぎます。
全体のコード進行例:
Am | Dm | G7 | C
(ここまでハ長調)
C7 | F
(ここからヘ長調へ)
ハ長調の最後のコードC
の代わりに、新しいキー(ヘ長調)のドミナントであるC7
を置くことで、自然とヘ長調の主和音F
への解決感が生まれ、転調が成立します。
演奏での実践: ギターやピアノでコードを弾いている場合、転調したいセクションの直前で、新しいキーのドミナントセブンスコードに切り替える練習をしてみてください。そのドミナントコードから新しいキーの主和音へ解決する響きを確認しながら演奏すると、転調の感覚を掴みやすくなります。
転調をあなたの音楽に取り入れるヒント
ご紹介した方法は、転調のほんの一例です。他にも多くの方法がありますが、まずはこれらの簡単な方法から試してみることをお勧めします。
- サビで転調してみる: Aメロ、Bメロで使っていたキーから、サビで半音上や全音上に転調するのは、ポップスなどでよく使われる手法です。曲全体のエネルギーを上げたい場合に効果的です。例えば、CメジャーからDbメジャー(半音上)やDメジャー(全音上)への転調などです。新しいキーのドミナントコードを挟む方法がよく使われます。
- ブリッジで転調してみる: サビの前にある「ブリッジ」と呼ばれるセクションで、一時的に別のキーへ転調し、その後元のキーや新しいキーに戻ってくるパターンもあります。サビへの期待感を高めたり、曲に奥行きを与えたりできます。
- まずは隣接するキーから: 長調同士で、主音が完全5度離れたキー(Cメジャーに対するGメジャーやFメジャーなど)への転調は、共通音が多く、比較的スムーズに行えます。慣れてきたら、平行調(Cメジャーに対するAmマイナーなど)や同主調(Cメジャーに対するCmマイナーなど)への転調も試してみましょう。
まとめ
転調は、曲に変化、展開、感情表現をもたらす powerful なテクニックです。難しく考えすぎず、まずは今回ご紹介した「共通コードを使う方法」や「新しいキーのドミナントコードを使う方法」から、あなたの作曲や演奏に取り入れてみてください。
理論を知っていると、なぜその転調が自然に聞こえるのか、あるいは意図的に不自然に聞こえるのかが理解できるようになります。そして、それはあなたの音楽表現の幅をきっと広げてくれるでしょう。
これからも、音楽理論を実践に活かすヒントをお届けしていきます。ぜひ、色々なキーでの転調を試してみてください。