音楽理論実践ノート

コードに個性をプラス!sus4, dim, augコードの響きと実践テクニック

Tags: コード, 実践, 作曲, 演奏, sus4, dim, aug

はじめに

音楽におけるコード(和音)は、曲の雰囲気や感情を大きく左右する要素です。多くの方がまず、主要な長三和音(メジャーコード)や短三和音(マイナーコード)から学び始めるかと思います。これらの基本的なコードに加えて、少しユニークな響きを持つコードを知り、効果的に使うことで、あなたの音楽表現はさらに豊かになります。

この記事では、「sus4(サスフォー)」「dim(ディミニッシュ)」「aug(オーグメント)」という、特徴的な響きを持つ3種類のコードに焦点を当てて解説します。それぞれのコードがどのような音で構成され、どのような響きを持ち、そして作曲や演奏でどのように活用できるのかを、実践的な視点からご紹介いたします。これらのコードをマスターして、あなたの音楽に新しい彩りを加えてみましょう。

sus4コードとは?浮遊感と解決を求める響き

sus4コードの構造と響き

sus4コードの「sus」は「suspended(中断された、保留された)」を意味します。通常の長三和音や短三和音は、ルート(根音)、その上に3度(長3度または短3度)、そして5度(完全5度)の音を重ねて作られます。例えば、ハ長調の主和音であるCコードは、ド(ルート)、ミ(長3度)、ソ(完全5度)の音で構成されます。

これに対して、sus4コードはルート、完全4度、完全5度の音で構成されます。例えばCsus4コードは、ド(ルート)、ファ(完全4度)、ソ(完全5度)の音です。本来の3度の音が4度の音に「置き換えられ」、保留されたような響きになります。

このコードの最も大きな特徴は、浮遊感や不安定さです。特に4度の音は、通常3度の音へと「解決」することを強く求められる性質を持っています。そのため、sus4コードは次に続くコードへの期待感や、解決した時の安定感を際立たせる効果があります。

sus4コードの実践的な使い方

sus4コードは、以下のような場面で非常によく使われます。

1. 通常コードからの置き換え

楽曲の中で、特定のコード(特にメジャーコード)をそのsus4コードに一時的に置き換えることで、響きに変化と奥行きを与えることができます。

例: C → G → Am → F このコード進行のCコードをCsus4に置き換えてみます。 Csus4 → C → G → Am → F

このように、Csus4の後に本来のCコードに戻る(解決する)ことで、単にCコードを弾くよりも洗練された印象や、次のコードへの流れがスムーズになります。これは他のコード(例えばGsus4からGへ、Asus4からAmへなど)でも応用できます。

2. ドミナントコードとしての使用(V7sus4)

sus4コードが最も頻繁に、かつ効果的に使われるのが、属七の和音(ドミナントセブンスコード、V7)の場面です。V7sus4という形で使用され、その後にV7(またはV)へ解決し、そして主和音(トニック、IまたはIm)へ進む進行は、ポピュラー音楽で非常によく耳にする定番パターンです。

例(ハ長調におけるV7sus4 → V7 → I): Gsus4 → G → C

Gsus4は、ソ(ルート)、ド(完全4度)、レ(完全5度)の音です。G7は、ソ(ルート)、シ(長3度)、レ(完全5度)、ファ(短7度)です。Gsus4からG7へ移行する際に、4度音(ド)が3度音(シ)へスムーズに解決する動きが心地よい響きを生み出します。このパターンは、曲の終わりに安定感や解決感をもたらしたい時や、セクションの区切りなどで非常に有効です。

DAWでの使い方: 多くのDAWでは、コードを入力する際に「sus4」のオプションを選択できます。例えば「C」と入力してから「sus4」を選ぶだけでCsus4が入力できます。MIDIキーボードで入力する場合は、ルート、完全4度、完全5度の音を同時に押鍵してください。

dimコードとは?緊張感と半音進行の魅力

dimコードの構造と響き

dimコードの「dim」は「diminished(減じられた)」を意味します。最も基本的なトライアドのdimコード(diminished triad)は、ルート、短3度、減5度の音で構成されます。例えばCdimコードは、ド(ルート)、ミ♭(短3度)、ソ♭(減5度)の音です。ルートから減5度までの音程は非常に不安定な響きを持ち、強い緊張感や不安、あるいは怪しい雰囲気を生み出します。

ポピュラー音楽でよく使われるのは、このトライアドdimに減7度を加えた減七の和音(diminished seventh chord, dim7)です。dim7コードは、ルート、短3度、減5度、減7度の音で構成されます。例えばCdim7コードは、ド(ルート)、ミ♭(短3度)、ソ♭(減5度)、シ♭♭(減7度)の音です。dim7コードは、その独特のシンメトリーな構造(構成音が全て短3度間隔)から、複数の機能を持つことができ、非常に不安定で次に解決することを強く求める響きを持ちます。

dimコードの実践的な使い方

dimコード、特にdim7コードは、コード進行にスムーズな動きや緊張感を与えるために使われます。

1. 経過和音としての使用

あるコードから次のコードへ移行する際に、その中間地点にdim7コードを挟むことで、滑らかな半音進行を作り出すことができます。

例1: C → Am この間にC#dim7を挟みます。 C → C#dim7 → Am

C#dim7の構成音は、ド#(ルート)、ミ(短3度)、ソ(減5度)、シ♭(減7度)です。Amコードの構成音は、ラ(ルート)、ド(短3度)、ミ(完全5度)です。C#dim7に含まれるミやソの音が、次のAmコードの構成音であるラ、ド、ミへ滑らかに繋がります。特に、ルートがC→C#→Aと半音上行するような動きが効果的です。

例2: Dm → Em この間にD#dim7を挟みます。 Dm → D#dim7 → Em

Dm(レ,ファ,ラ)→ D#dim7(レ#,ファ#,ラ,ド)→ Em(ミ,ソ,シ)。ここでもルートが半音上行し、コード間の繋がりがスムーズになります。

この経過和音としてのdim7は、ターゲットとなるコードのルートの半音下または半音上から配置されることが多いです。

2. ドミナントモーションを強化する

dim7コードは、特定のコードのドミナントモーション(解決したがる動き)を強化するためにも使用されます。例えば、Imコード(短三和音の主和音)に進む際に、その半音下の音をルートとするdim7コードを間に挟むことがあります。これは、本来のドミナントセブンスコードの代理として機能することがあります。

例(イ短調におけるVII7dim7 → Im): G#dim7 → Am

G#dim7(ソ#,シ,レ,ファ)は、Amの主音(ラ)に対して解決したがる強い性質を持ちます。これは、イ短調のドミナントであるE7(ミ,ソ#,シ,レ)のルート音(ミ)を除いた構成音と似ているため、ドミナント的な機能を持ちます。

DAWでの使い方: dimコードは、多くの場合「dim」または「dim7」として選択できます。例えば「C」と入力してから「dim7」を選ぶとCdim7が入力できます。経過和音として使う場合は、ターゲットコードのルート音から半音上または半音下の音をルートとするdim7コードを試してみてください。

augコードとは?広がりと不安定な響き

augコードの構造と響き

augコードの「aug」は「augmented(増大された)」を意味します。augコード(augmented triad)は、ルート、長3度、増5度の音で構成されます。例えばCaugコードは、ド(ルート)、ミ(長3度)、ソ#(増5度)の音です。通常のメジャーコードの完全5度が半音高くなり、増5度になります。

このコードの最も大きな特徴は、広がりや浮遊感です。解決を強く求めるdimコードとは異なり、augコードは次にどこへ向かうか予測しにくい、宙ぶらりんな印象を与えることがあります。明るいメジャーコードの長3度を含みますが、増5度の音程が独特の不協和感と不安定さをもたらし、夢のような、あるいは不気味な雰囲気など、多様な感情を表現できます。

augコードの実践的な使い方

augコードは、sus4やdimほど頻繁には使われないかもしれませんが、効果的な場面で用いると楽曲に特別な彩りを加えることができます。

1. ドミナントコードとしての使用(Vaug)

augコードが最も典型的に使われるのは、ドミナントコード(V)として、あるいはドミナントセブンスコード(V7)の増5度バージョン(V7#5)としてです。

例(ハ長調におけるVaug → I): Gaug → C

Gaugは、ソ(ルート)、シ(長3度)、レ#(増5度)の音です。Gコード(ソ,シ,レ)のレが増5度のレ#になっています。GaugからC(ド,ミ,ソ)へ解決すると、Gaugの増5度であるレ#の音がCコードの長3度であるミへ半音上行する動きが、強い解決感と共に独特の響きを生み出します。これは、特にメジャーキーの終止でドラマチックな効果を狙いたい場合に有効です。

V7の増5度バージョンであるV7#5は、ルート、長3度、増5度、短7度で構成されます。例えばG7#5は、ソ(ルート)、シ(長3度)、レ#(増5度)、ファ(短7度)です。これもドミナントとしてIコードへ解決します。

2. メロディーとの関連

楽曲中でaugコードを使用する際、メロディーラインに増5度の音(Caugならソ#)を含めると、コードの響きとメロディーが一体となり、独特の雰囲気を強調できます。

DAWでの使い方: augコードは「aug」または「+」として選択できます。例えば「C」と入力してから「aug」を選ぶとCaugが入力できます。ドミナントとして使う場合は、キーの属音(ドミナント)をルートとするaugコードを試してみてください。

まとめ

今回は、sus4、dim、augという3つの特徴的なコードをご紹介しました。

これらのコードは、メジャーやマイナーコードだけでは表現できない、多様な感情や雰囲気を音楽に加えることができます。まずは簡単なコード進行の中にこれらのコードを一つ加えてみて、その響きの変化を実際に耳で確かめてみてください。

あなたの作曲や演奏に、これらのコードが新しいインスピレーションをもたらすことを願っています。