コード進行に深みを出す!分数コード(オンコード)の活用法
はじめに
音楽理論を学び始め、コード進行に少しずつ慣れてきた頃、「もっと曲に豊かな響きや滑らかな流れを持たせたい」と感じることはありませんか?そんなときに役立つのが、「分数コード」と呼ばれるものです。
分数コードは、一見すると複雑そうに見えるかもしれませんが、その考え方はシンプルで、少し加えるだけでコード進行の印象を大きく変えることができます。この記事では、分数コード(オンコードとも呼ばれます)の基本的な仕組みと、作曲や演奏でどのように活用できるかを、分かりやすく実践的な視点から解説していきます。
分数コード(オンコード)とは?
分数コードは、「コード/ベース音」のようにスラッシュ記号(/)で区切って表記されるコードのことです。例えば、「C/G」と書かれていたら、これは「Cメジャーコードを弾きながら、ベースの音はGにする」という意味になります。
- スラッシュの左側: 実際に鳴らすコード(この場合はCメジャーコード)
- スラッシュの右側: そのコードと一緒に鳴らすベースの音(この場合はGの音)
この表記から、「オンコード」とか「スラッシュコード」と呼ばれることもあります。
通常、コードはそのルート音(例えばCメジャーコードならCの音)をベースとして鳴らします。しかし、分数コードでは、コードの構成音以外の音や、コードの構成音であってもルート音とは異なる音を意図的にベースとして指定することで、独特の響きや動きを生み出します。
なぜ分数コードを使うと「深み」や「変化」が生まれるのか?
分数コードを使う最大の目的は、コード自体の響きは保ちつつ、ベースラインの動きに変化をつけることです。
例えば、Cメジャーコードを弾くとき、通常はベースもCの音を鳴らします。しかし、C/Gとすると、同じCメジャーコードの響きの上にGの音がベースとして乗ります。これにより、以下のような効果が生まれます。
- ベースラインが滑らかになる: コードが頻繁に変わる進行で、ベース音を順番に進めることで、全体の流れが非常に滑らかになります。
- 独特の響き: コードのルート音以外の音をベースに置くことで、不安定感や浮遊感、あるいは意外性のある響きが生まれます。
- 特定の音の強調: 次のコードの重要な音を先にベースに置いておくことで、そのコードへの繋がりを強調できます。
このように、分数コードはコード進行全体に新しい視点、特にベースラインの動きという視点をもたらし、曲の雰囲気に深みや彩りを加えることができるのです。
コード進行での具体的な活用例
いくつかの定番の分数コードの活用例を見てみましょう。
例1:ベースラインを順次進行にする
これは最も一般的で効果的な使い方の一つです。
元のコード進行:C - G - Am - F
この進行は王道ですが、コードのルート音(C→G→A→F)はスムーズとは言えません。ここで分数コードを使ってみます。
分数コードを使った進行:C - G/B - Am - F/A
ベース音に注目してみましょう。
- Cコードではベース音はC
- G/Bではベース音はB
- Amコードではベース音はA
- F/Aではベース音はA
ベースラインが C → B → A → A → ... となり、特に C - G/B - Am の部分は C → B → A と順次進行(隣り合う音程で進む)になっています。これにより、コードは変わっているのに、まるで一つのメロディーのように滑らかなベースラインが生まれます。この進行は非常に頻繁に使われます。
例2:ドミナントコードの代わりに使う
曲の終わりや重要な区切りで使われることの多いドミナントコード(キーCならG)の代わりに、分数コードを使うことがあります。
元のコード進行:F - G - C
分数コードを使った進行:F - G/B - C または F - C/G - C
- F - G/B - C: 先ほどの例と同じく、G/Bを使うことでベースラインが F → B → C となり、少し意外性のある、でも滑らかな着地感が出ます。
- F - C/G - C: これは少し特殊な例ですが、C/GはG7sus4(9,13)のようなテンションコードとしても解釈でき、浮遊感のある響きからCコードへの解決感を高めることがあります。特にクラシックギターなどで使われる響きです。ここでは、Fコードの次に敢えてCコードの一部であるGをベースに持ってきて、Cコードへの繋がりを強調していると捉えることもできます。
例3:ルート音以外の構成音をベースにする
Amコードを例にとってみましょう。Amコードの構成音はA(ルート)、C(短3度)、E(完全5度)です。通常はAがベースですが、CやEをベースにすることができます。
- Am/C: Amコードの響きの上にCの音がベースに乗ります。元のAmとは少し違った、より憂鬱な響きに聞こえることがあります。
- Am/E: Amコードの響きの上にEの音がベースに乗ります。これはAmの構成音であるEを強調する響きになります。ベースラインをEに保ったまま Am/E - Dm/E - G/E - C/E のようにコードを変えていく手法などもあります。
作曲や演奏で分数コードを実践してみましょう
分数コードの理論が理解できたら、実際にあなたの音楽に取り入れてみましょう。
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作曲での活用:
- 今作っている曲のコード進行を見直してみましょう。特に、コードが変わる部分でベース音が大きく跳躍している箇所はありませんか?そこに分数コードを試してみることで、ベースラインを順次進行に近づけたり、半音で進行させたりして、滑らかな流れを作れないか検討してみてください。
- 特定のコードに続く部分で、少し変わった響きや浮遊感が欲しい場合、そのコードのルート音以外の構成音や、次のコードのルート音をベースに置いた分数コードを挟んでみましょう。
- DAWを使っている場合は、ピアノロール画面でベースの音だけを動かしてみて、どのような分数コードになっているかを確認したり、逆に意図的に分数コードを入力して響きを試したりできます。コードトラック機能があれば、上のコードと下のベース音を分けて指定できる場合もあります。
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演奏での活用:
- ギターやピアノ: 分数コードは通常のコードとは異なる押さえ方が必要になります。まずは簡単な分数コード(C/G, G/B, D/F#, Am/Gなど)の基本的な押さえ方を覚えてみましょう。特にピアノでは、左手でベース音、右手でコードを弾くことで分数コードを容易に実践できます。
- バンド: バンドで演奏する場合、分数コードの「コード」の部分はギターやキーボードが、「ベース音」の部分はベースギターが担当することが一般的です。楽譜に分数コードが出てきたら、ベーシストと協力して、意図した通りのベースラインが鳴るように確認しましょう。
まとめ
分数コード(オンコード)は、「コードはそのままに、ベースの音を変える」というシンプルなアイデアから生まれるコードです。これを取り入れることで、単調になりがちなコード進行に、滑らかな流れや豊かな響き、意外性のある彩りを加えることができます。
難しく考えすぎず、まずは定番の「ベースライン順次進行」のパターンから試してみてください。あなたの音楽が、分数コードによってさらに表情豊かになることを願っています。
様々なコード進行で、この分数コードの「深み」や「変化」をぜひ体験してみてください。