コード進行を彩る!パッシングディミニッシュのやさしい使い方
音楽理論実践ノートへようこそ。この記事では、「パッシングディミニッシュコード」という、コード進行に独特の響きとスムーズな流れを加えてくれるコードについて解説します。
名前だけ聞くと難しく感じるかもしれませんが、その仕組みと使い方は案外シンプルです。このコードを理解し活用できるようになると、あなたの作曲やアレンジの表現力がぐっと豊かになるでしょう。
パッシングディミニッシュコードとは?
まず、「ディミニッシュコード」について簡単におさらいしましょう。ディミニッシュコードは、根音(ルート)から数えて短3度、減5度、そして減7度(または長6度、後述)で構成される、どこか不安定で緊張感のある響きを持つコードです。例えば、CディミニッシュトライアドはC-Eb-Gb、Cディミニッシュセブンス(Cm7-5とも表記されます)はC-Eb-Gb-Bbb(重減7度)、Cディミニッシュセブンス(ホールトーン/ディミニッシュスケール由来のタイプ、Cdim7と表記されることが多い)はC-Eb-Gb-A(長6度)となります。
パッシングディミニッシュコードの「パッシング(Passing)」とは、「経過する」「通過する」という意味です。つまり、パッシングディミニッシュコードは、特定のコードから別のコードへ移る際に、その「経過」として使われるディミニッシュコードのことです。
なぜ「パッシング」として機能するのか?
パッシングディミニッシュコードがコード進行の中で自然に聞こえるのは、主に以下の二つの理由によります。
- ベースラインの順次進行: パッシングディミニッシュコードのルート(根音)が、その前後のコードのルートに対して、半音または全音で滑らかに(順次的に)移動することが多いです。例えば、Cメジャーコード(C)からDマイナーコード(Dm)へ進む際に、Cのルートである「ド」とDmのルートである「レ」の間に、C#ディミニッシュコード(C#dim7)を挟むと、ベースラインが「ド」→「ド#」→「レ」と順次進行し、とてもスムーズに聞こえます。
- コード進行例:
C | C#dim7 | Dm
- ベースライン:
ド | ド# | レ
- コード進行例:
- 構成音の共通性や経過: パッシングディミニッシュコードの構成音の中に、次に解決するコードの構成音へ滑らかに(半音などで)移動する音が含まれていることがあります。不安定なディミニッシュコードの響きが、安定した次のコードへと解決することで、心地よい流れが生まれます。
パッシングディミニッシュコードの実践的な使い方
最も一般的で使いやすいパッシングディミニッシュコードの使い方をいくつかご紹介します。
1. ルートが半音上がるパッシングディミニッシュ
これは先ほど例で挙げたパターンです。コードAからコードBへ進む際に、Aのルート音の半音上の音をルートとするディミニッシュコードを挟みます。コードBのルートは、そのディミニッシュコードのルートの半音上または全音上になります。
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例1:I - #Idim7 - ii
- Key = C Major
- コード進行:
C | C#dim7 | Dm
- (ド)→(ド#)→(レ)というベースラインが特徴的です。
- C#dim7 (C#-E-G-B♭) から Dm (D-F-A) へ移る際、C#→D (半音上)、E→F (半音上)、G→A (全音上)、B♭→A (全音下) と、ベース以外の音も滑らかに動く要素があります。
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例2:iii - #iiidim7 - IV
- Key = C Major
- コード進行:
Em | Fdim7 | F
- (ミ)→(ファ)→(ファ)というベースラインになります。Fdim7はF-Ab-Cb(B)-D。CbはBと同じ音です。Fdim7 (F-Ab-B-D) から F (F-A-C) へ移る際、Fは共通音、Ab→A (半音上)、B→C (半音上)、DもFコードの5th(C)やroot(F)へ解決することが考えられます。
2. ルートが半音下がるパッシングディミニッシュ
こちらは、コードAからコードBへ進む際に、コードAのルート音の半音下の音をルートとするディミニッシュコードを挟むパターンです。
- 例:I - bIIdim7 - I (分数コード的に使う)
- Key = C Major
- コード進行:
C | Cdim7 | C
- これは少し特殊ですが、Cのルート(ド)に対して、半音下のBをルートとするディミニッシュコードを使い、ベースラインを「ド」→「シ」→「ド」と動かすパターンです。
- コードとしてはC-G-C(Cコード)→B-D-F-Ab(Bdim7)→C-G-C(Cコード)のような響きになります。ベース音がルート(C→B→C)を弾くことで、スムーズな流れが生まれます。表記上はC on B♭ のような分数コードと似たようなベースの動きを伴うこともあります。
3. ルートが全音下がるパッシングディミニッシュ
コードAからコードBへ進む際に、コードAのルート音の全音下の音をルートとするディミニッシュコードを挟むパターンです。次に解決するコードBのルートは、そのディミニッシュコードのルートの全音下になります。
- 例:VIm - VIm(bV)dim7 - Vm
- Key = A Minor (Natural Minor)
- コード進行:
Am | G#dim7 | Gm
- (ラ)→(ソ#)→(ソ)というベースラインになります。G#dim7はG#-B-D-F。ここからGm (G-B♭-D) へ移る際、G#→G (半音下)、B→B♭ (半音下)、Dは共通音、FはGコードのroot(G)などへ解決することが考えられます。これはAマイナーの平行調であるCメジャーでは、vi - #vdim7 - v となります。
演奏やDAWでの実践方法
- 演奏: ギターやピアノでこれらのコードを実際に押さえて、前後のコードと一緒に弾いてみましょう。ベース音の動きに注目すると、スムーズな流れがより感じられます。最初はトライアド(3和音)で試しても良いですが、セブンス(7th)を加えたディミニッシュセブンスコードの方が、より経過的な響きが強まることが多いです。
- DAW: MIDIで打ち込む場合、前後のコードの間にパッシングディミニッシュコードの音符を配置します。特にベースの音符を順次進行させることを意識すると、効果が出やすいです。ディミニッシュコードの構成音(例えばC#dim7なら C#, E, G, B♭)をメロディーや上声部で使うと、より特徴的な響きを加えることができます。ただし、これらの音は不安定なので、次に解決するコードの構成音へスムーズに繋がるようにメロディーを動かすのがコツです。
まとめ
パッシングディミニッシュコードは、主にベースラインの順次進行を滑らかにするために使われる経過的なコードです。前後のコードのルート音と半音または全音の関係にあるルートを持つディミニッシュコードを間に挟むことで、コード進行に独特の色彩とスムーズな流れを加えることができます。
この記事で紹介した例(C | C#dim7 | Dm
など)を参考に、ぜひあなたの楽曲や演奏に取り入れてみてください。最初は既存の曲のコード進行を分析して、どこでパッシングディミニッシュコードが使われているかを探してみるのも良い勉強になります。
練習を重ねるうちに、この魅力的なコードの響きを自然に使いこなせるようになるでしょう。