音楽理論実践ノート

音楽に変化と表情を!並行調・同主調のやさしい解説と使い方

Tags: 並行調, 同主調, 調性, 転調, 借用和音, コード進行, 作曲

はじめに

音楽を聴いていると、同じ曲なのに途中で雰囲気がガラッと変わったり、短調だったメロディーが急に明るくなったりすることがあります。このような変化は、主に「調(キー)」が変わることで生まれます。

調には「長調(メジャー)」と「短調(マイナー)」があり、それぞれ明るい、暗いといった異なる響きを持っています。そして、ある調に対して特別な関係を持つ調がいくつかあります。その中でも、作曲や演奏で手軽に雰囲気の変化をつけられるのが、並行調(へいこうちょう)同主調(どうしゅちょう)です。

この記事では、並行調と同主調とは何かを分かりやすく解説し、それらをどのように作曲や演奏に活かせるのか、具体的なコード進行やメロディーの例を交えてご紹介します。これを読むことで、あなたの音楽表現の幅がきっと広がるでしょう。

並行調(Parallel Key)とは?

まずは並行調から見ていきましょう。

並行調とは、「同じ調号を持つ長調と短調」の関係です。例えば、ハ長調(Cメジャー)の調号は何もつきません。この調号を持った短調はイ短調(Aマイナー)です。したがって、ハ長調の並行調はイ短調ということになります。

| 長調 | 調号 | 並行短調 | | :---------- | :-------- | :---------- | | ハ長調 (C) | なし | イ短調 (Am) | | ト長調 (G) | ♯1つ (F) | ホ短調 (Em) | | ヘ長調 (F) | ♭1つ (B) | ニ短調 (Dm) | | ニ長調 (D) | ♯2つ (F, C) | ロ短調 (Bm) | | 変ホ長調(E♭)| ♭3つ (B, E, A)| ハ短調 (Cm) |

このように、並行調の関係にある長調と短調は、使われている基本的な音が同じです。Cメジャースケール(ドレミファソラシド)とAマイナースケール(ラシドレミファソラ、自然短音階の場合)を比べてみてください。構成音は全く同じですね。

にもかかわらず、基準となる音(トニック)が違うため、響きや雰囲気が異なります。これが、並行調を活用して音楽に変化をつける鍵となります。

実践!並行調をコード進行に活かす

並行調の関係にある調の間をコード進行で移動することを「転調(てんちょう)」と呼びます。並行調への転調は、構成音が同じなため非常にスムーズに行えます。

例1:長調から並行短調へ

ハ長調(Cメジャー)の曲で、途中からイ短調(Aマイナー)の雰囲気を出す例です。

元の進行(ハ長調): C | G | Am | F

並行短調(イ短調)を取り入れた進行: C | G | Am | **Em** | **Am**

Amはハ長調でもイ短調でも共通のコードですが、Em(イ短調の主要なコードの一つ)を使うことで、イ短調への雰囲気が生まれます。あるいは、AマイナーのトニックであるAmにドミナントであるE7からスムーズにつなぐこともできます。

C | G | Am | **E7** | **Am**

明るいCメジャーの響きから、少し物憂げなAmの響きへと自然に移行できます。

例2:短調から並行長調へ

イ短調(Aマイナー)の曲で、途中からハ長調(Cメジャー)の雰囲気を出す例です。

元の進行(イ短調): Am | Em | F | G

並行長調(ハ長調)を取り入れた進行: Am | Em | F | **C** | **G** | **C**

イ短調の響きから、Fの後にハ長調のトニックであるCやドミナントGを使うことで、明るいCメジャーの響きへと変化します。

このように、並行調への転調は、コード進行の中に相手の調のコードを自然に混ぜることで、滑らかな雰囲気の変化を生み出すことができます。

実践!並行調をメロディーに活かす

コード進行だけでなく、メロディーでも並行調のスケールを使うことで変化をつけられます。

例えば、Cメジャーのコード進行(C-G-Am-F)に合わせてメロディーを作っているとします。通常はCメジャースケール(ドレミファソラシド)を使いますが、もしコード進行がC-G-Am-E7-Amのようにイ短調の要素を含んできたら、その部分でAマイナースケール(ラシドレミファソラ)を意識してメロディーを考えてみましょう。

同じ音を使っていても、コードとの組み合わせや、スケールとして捉え直すことで、より自然で感情豊かなメロディーラインが生まれることがあります。

同主調(Relative Key)とは?

次に同主調です。

同主調とは、「同じ主音(トニック)を持つ長調と短調」の関係です。例えば、ハ長調(Cメジャー)と同主調の関係にある短調はハ短調(Cマイナー)です。主音(トニック)がどちらも「ド(C)」ですね。

| 長調 | 同主短調 | | :---------- | :---------- | | ハ長調 (C) | ハ短調 (Cm) | | ト長調 (G) | ト短調 (Gm) | | ヘ長調 (F) | ヘ短調 (Fm) | | ニ長調 (D) | ニ短調 (Dm) | | 変ホ長調(E♭)| 変ホ短調(E♭m)|

並行調とは異なり、同主調の関係にある長調と短調は、使われている音が大きく異なります。Cメジャースケール(ドレミファソラシド)とCマイナースケール(ドレミ♭ファソラ♭シ♭ド、自然短音階の場合)を比べると、ミ♭、ラ♭、シ♭など、いくつか音が違いますね。

主音が同じでも、構成音が違うため、同主調間の移動は並行調間よりも劇的な雰囲気の変化を生み出します。

実践!同主調をコード進行に活かす

同主調への転調もよく使われますが、もっと手軽な方法として、同主調のダイアトニックコードを一時的に借りてくるテクニックがあります。これを「借用和音(しゃくようわおん)」と呼びます。

例えば、ハ長調(Cメジャー)の曲で、同主短調であるハ短調(Cマイナー)のコードを借りてみましょう。ハ短調のダイアトニックコードには、Cm、Dmb5、E♭、Fm、Gm、A♭、B♭といったものがあります。

例:ハ長調の曲でハ短調のコードを借用

元の進行(ハ長調): C | G | Am | F

ハ短調のコード(Cm、Fm、A♭など)を借用した進行: C | G | **Cm** | **Fm** | C

あるいは、ブルースなどでよく聞かれる進行: C | F | **Cm** | G7 | C

CmFmといったコードは、ハ長調のダイアトニックコードにはありません。これらを突然使うことで、ハ長調の明るい雰囲気の中に、ハ短調特有の少し影のある、あるいはブルースのような響きが生まれます。主音がCで変わらないのに、周りのコードが変わることで、聞いている側には意表を突かれるような、面白い変化として感じられます。

特に、同主短調のサブドミナント(IVm)であるFmや、同主短調のドミナント(Vm)であるGm、同主短調の♭VI(♭Ⅵ)であるA♭などは、長調の曲でよく借用されます。

実践!同主調をメロディーに活かす

同主調のコードを借用した部分では、そのコードに合ったスケールを使うことで、より効果的なメロディーを作ることができます。

例えば、Cメジャーの曲の途中でCmコードが出てきたら、その部分ではCメジャースケールだけでなく、Cマイナースケール(特にメロディックマイナーやハーモニックマイナーも考慮に入れるとさらに表現豊かになります)の音を意識してメロディーを考えてみましょう。特に、Cマイナースケールに含まれるミ♭、ラ♭、シ♭といった音は、Cメジャースケールにはないため、メロディーに強いニュアンスの変化を与えます。

並行調と同主調の使い分け

並行調と同主調は、どちらも長調と短調の関係ですが、音楽に与える効果は異なります。

どちらを使うかは、曲でどのような変化をつけたいかによります。自然な流れで雰囲気の変化を出したいなら並行調、同じ場所で大胆なムードチェンジをしたいなら同主調の借用などを試してみると良いでしょう。

DAWや楽器での実践ヒント

まとめ

並行調と同主調は、長調と短調という基本的な響きの違いを活かして、音楽に多様な表情を与えるための強力なツールです。

まずは、あなたが普段使っている簡単なコード進行に、並行短調や同主短調のコードを一つ加えてみることから始めてみましょう。そして、そのコードの上でどのようなメロディーが合うか試してみてください。

これらのテクニックをあなたの作曲や演奏に取り入れることで、音楽表現の幅が大きく広がるはずです。ぜひ実践してみてください。