曲に動きとニュアンスを!非和声音(ノンコードトーン)の基礎と実践
はじめに:メロディーに「彩り」を加える非和声音とは
音楽を聴いていると、メロディーが滑らかに動いたり、予想外の響きでドキッとさせられたりすることがありますね。コード進行だけでは生まれない、そうしたメロディーの表情や動きを豊かにしている要素の一つに、「非和声音(ひわせいおん)」、または「ノンコードトーン」と呼ばれる音があります。
非和声音とは、簡単に言うと、その時鳴っているコードの構成音(コードトーン)ではない音のことです。一見、コードに合わない音を使うのは難しそう、あるいは不協和に聞こえるのでは?と感じるかもしれません。しかし、非和声音は一時的に使われ、次のコードトーンや和声音に解決(落ち着くこと)することで、音楽に独特の「動き」や「ニュアンス」を生み出します。
この記事では、非和声音の基本的な考え方と、作曲や演奏ですぐに使える代表的な非和声音の種類をご紹介します。非和声音を効果的に使うことで、あなたの作るメロディーやフレーズがぐっと豊かになり、より魅力的な音楽表現が可能になります。
非和声音(ノンコードトーン)の基本:コードトーンとの関係
まず、非和声音がどのような音なのかを理解しましょう。音楽理論では、その時に鳴っているコードに含まれる音を「和声音(コードトーン)」と呼びます。例えば、Cメジャーコード(C-E-G)が鳴っているとき、C、E、Gの音は和声音です。
一方、同じCメジャーコードが鳴っているときに、C、E、G以外の音(例えばDやF、Aなど)が鳴れば、それらは「非和声音(ノンコードトーン)」と呼ばれます。
非和声音は、和声音と和声音の間を繋いだり、和声音を装飾したりするために一時的に使われます。多くの場合、非和声音はすぐに近くの和声音へ移動し、安定した響きに戻ります。この「不安定な非和声音 → 安定した和声音への解決」という流れが、音楽に滑らかさや表情を生み出すのです。
代表的な非和声音の種類と実践的な使い方
非和声音にはいくつかの種類がありますが、ここでは初心者の方でも理解しやすく、すぐに実践に取り入れやすい代表的な3つの種類をご紹介します。
1. 経過音(Passing Tone / PT)
経過音は、ある和声音から別の和声音へ、順次進行(隣り合った音への移動、例えばドからレ、ミからファなど)で移動する途中で使われる非和声音です。和声音同士を滑らかに繋ぐ「橋渡し」のような役割をします。
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使い方: あるコードのコードトーンAからコードトーンBへ順次進行で移動する際、その間の音を経過音として挟みます。上行(音が上がる)でも下行(音が下がる)でも使えます。
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実践例: Cメジャーコード(C-E-G)が鳴っているとします。
- メロディーがCからEへ移動する場合、その間にDを挟むことで「C - D - E」という滑らかな動きを作れます。このDはCメジャーコードに対する経過音です。
- メロディーがEからCへ移動する場合、「E - D - C」のようにDを挟むこともできます。このDも経過音です。
- 同様に、EからGへは「E - F - G」(Fが経過音)、GからEへは「G - F - E」(Fが経過音)のように使えます。
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効果: 和声音同士の跳躍(音が飛ぶ動き)を避けて、メロディーをより歌いやすく、滑らかに聞かせたい場合に有効です。
2. 刺繍音(Neighbor Tone / NT)
刺繍音は、ある和声音からすぐ隣の音に移動し、すぐに元の和声音に戻る非和声音です。まるで元の音を「刺繍」で飾るような動きをします。
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使い方: コードトーンAから、そのすぐ上の音(上部刺繍音)またはすぐ下の音(下部刺繍音)へ移動し、すぐに元のコードトーンAに戻ります。
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実践例: Cメジャーコード(C-E-G)が鳴っているとします。
- Cの音を装飾したい場合、「C - D - C」のようにD(Cのすぐ上の音)を挟むことができます。このDは上部刺繍音です。
- 「C - B - C」のようにB(Cのすぐ下の音)を挟むこともできます。このBは下部刺繍音です。
- 同様に、Eに対しては「E - F - E」(Fが上部刺繍音)、「E - D - E」(Dが下部刺繍音)。Gに対しては「G - A - G」(Aが上部刺繍音)、「G - F - G」(Fが下部刺繍音)のように使えます。
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効果: メロディーの同じ音が続く場合や、特定の音にリズム的なアクセントや彩りを加えたい場合に効果的です。ちょっとした揺れや装飾として機能します。
3. 先取音(Anticipation / ANT)
先取音は、これから鳴る次のコードのコードトーンを、今のコードが鳴っている間に先取りして鳴らす非和声音です。次のコードへの期待感を生み出します。
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使い方: コードが切り替わる直前に、切り替え後のコードのコードトーンを現在のコードの上で鳴らします。多くの場合、シンコペーション(食い気味のリズム)と組み合わせて使われます。
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実践例: Am7コードからDm7コードへ進行するとします。
- Am7コードが鳴っているタイミングで、次のDm7のコードトーンであるD, F, A, Cのいずれか(または複数)を鳴らします。例えば、Am7の最後の拍でDm7のコードトーンであるCを鳴らし、次の拍頭でDm7コードに解決する、といった使い方です(Am7コードにとってCは非和声音)。
- コード進行例:
| Am7 | Dm7 |
の場合、- リズム:
Am7 (タ) Dm7 (ア)
← タの部分で次のコードのコードトーンを鳴らす - メロディー例:
| A G | C F |
(Am7のGはコードトーン、Dm7のFはコードトーン、Am7のCは次のDm7のコードトーンなので先取音として使える) - より具体的に:
| Am7(A音) | Dm7(F音) |
という単純なメロディーに、Am7の最後で次のDm7のコードトーンであるC音を先取りする例:| Am7(A音) C音 | Dm7(F音) |
このAm7上のC音が先取音です。
- リズム:
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効果: 次のコードへの滑らかな繋がりや、リズミカルな推進力を生み出します。特にコードチェンジの直前で使うと、曲に勢いや期待感が生まれます。
非和声音を実践に取り入れるヒント
- 簡単なコード進行で試す: まずはC-G-Am-Fのような基本的なコード進行で、経過音や刺繍音、先取音をメロディーに加えてみましょう。
- ゆっくりとしたテンポで確認: 最初はゆっくりとしたテンポで、非和声音が和声音にどう解決するのか、その響きを確認しながら試してみてください。
- DAWで打ち込んでみる: DAWを使っている場合は、簡単なコードとメロディーを打ち込み、様々な種類の非和声音を試してみてください。視覚的に音を確認しながら調整できます。
- 楽器で弾いてみる: ギターやピアノなどでコードを鳴らしながら、メロディーに非和声音を加えて弾いてみましょう。耳で直接響きを確認するのが一番の学びになります。
- 好きな曲を分析する: 好きな曲のメロディーやフレーズに、どんな非和声音が使われているか耳コピや楽譜を見て分析してみるのも勉強になります。
まとめ:非和声音でメロディーに命を吹き込もう
非和声音(ノンコードトーン)は、単にコードトーンだけでは表現できない、音楽の豊かな表情や動きを作り出すための強力なツールです。経過音、刺繍音、先取音といった代表的な非和声音を理解し、意識的に使うことで、あなたのメロディーはより滑らかに、より装飾的に、そしてより魅力的に変化するでしょう。
最初は難しく感じるかもしれませんが、まずは簡単なものから一つずつ試してみてください。非和声音が和声音へ解決する時の響きや、それが生み出すメロディーの動きに注目することが大切です。
この記事でご紹介した基礎知識と実践例を参考に、ぜひあなたの音楽制作や演奏に非和声音を取り入れてみてください。きっと、あなたの音楽に新たな発見と喜びをもたらしてくれるはずです。
次のステップ
非和声音には、今回ご紹介したもの以外にも掛留音(Suspension)や倚音(Appoggiatura)など、さらに多様な種類があります。それぞれの特徴や効果を学ぶことで、メロディーの表現の幅はさらに広がります。基本的な非和声音の使い方に慣れてきたら、他の種類の非和声音にも挑戦してみることをお勧めします。