メロディーを滑らかに彩る!経過音と刺繍音のやさしい使い方
メロディーを滑らかに彩る!経過音と刺繍音のやさしい使い方
音楽のメロディーは、主にコードの構成音(コードトーン)を並べて作られます。しかし、コードトーンだけでは少し単調に聞こえてしまうことがあります。そんな時にメロディーに彩りや滑らかさを加えてくれるのが、「ノンコードトーン」と呼ばれる音です。
ノンコードトーンとは、その瞬間に鳴っているコードに含まれていない音のことです。これらを効果的に使うことで、メロディーはより表情豊かになり、音楽に深みが増します。
ノンコードトーンにはいくつかの種類がありますが、今回は特にメロディーの「流れ」を滑らかにしたり、同じ音を繰り返すだけの部分に「表情」をつけたりするのに役立つ「経過音」と「刺繍音」に焦点を当てて、やさしく解説していきます。これらの使い方を知ることで、あなたの作曲や演奏のメロディーが、きっと生き生きとしたものになるはずです。
経過音(Passing Tone)とは? メロディーを「つなぐ」音
経過音は、メロディーにおいて2つのコードトーンの間を、順番に音をたどりながら埋めるように使われるノンコードトーンです。階段を一段ずつ上り下りするように、音が滑らかに移動する際に登場します。
例えば、Cメジャーコード(ド、ミ、ソ)が鳴っている時に、メロディーが「ド」から「ミ」へ移動するとします。
通常のメロディー:
コード:C
メロディー:ド → ミ
この間に「レ」の音を挟むとどうなるでしょうか。Cコードにとって「レ」はコードトーンではありません。しかし、「ド」と「ミ」というコードトーンの間を埋めるように使われています。
経過音を使ったメロディー:
コード:C
メロディー:ド → レ(経過音) → ミ
この「レ」の音が経過音です。コードトーンであるドとミの間を、順次進行(音程が隣り合っている動き)でスムーズにつないでいます。
経過音は、上方向にも下方向にも使われます。
下行経過音の例(ミからドへ):
コード:C
メロディー:ミ → レ(経過音) → ド
経過音の実践的な使い方
経過音は、メロディーに自然な流れと滑らかさを与えるのに非常に効果的です。
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単調な跳躍を滑らかに: コードトーン間の跳躍(音が離れた動き)が多いメロディーは、時に機械的に聞こえることがあります。そこに経過音を加えることで、人の歌声や楽器の演奏のような、より自然なニュアンスが生まれます。
例:Cコード上で「ド」から「ソ」へ移動するメロディー
text 元のメロディー:ド → ソ 経過音を追加:ド → レ → ミ → ファ(いずれもCコードに対する経過音) → ソ または:ド → ミ → ソ (これらはコードトーンのみ)
このように、間の音を順次進行で埋めていくことができます。 -
ベースラインでの活用: コードが変わる際に、ベースラインで経過音を使うと、コード進行がよりスムーズに聞こえます。
例:CコードからFコードへ移るベースライン
text 元のベース:C → F 経過音を追加:Cコードのルート(ド) → レ(Cコードに対する経過音) → Fコードのルート(ファ) (コード:C → F)
DAWでの打ち込みや楽器での演奏では、経過音を入れることで、メロディーやベースラインに「歌うような」ニュアンスを加えることができます。特に、ゆったりとしたテンポの曲や、メロディアスなフレーズを作る際に有効です。
刺繍音(Neighbor Tone)とは? 音に「表情」をつける音
刺繍音は、あるコードトーンのすぐ隣の音へ移動し、すぐに元のコードトーンに戻ってくるノンコードトーンです。元の音を飾る(刺繍する)ような動きをすることから、この名前がつきました。
例えば、Cメジャーコード(ド、ミ、ソ)が鳴っている時に、メロディーが「ド」の音を続けているとします。
元のメロディー:
コード:C
メロディー:ド → ド → ド
この真ん中の「ド」の代わりに、すぐ上の音「レ」へ移動して、また「ド」に戻ってみましょう。
刺繍音を使ったメロディー(上方向):
コード:C
メロディー:ド → レ(刺繍音) → ド
この「レ」の音が刺繍音です。コードトーンであるドから隣の音へ移動し、すぐに元のドに戻っています。
刺繍音には、元の音のすぐ上の音を使う「上行刺繍音」と、すぐ下の音を使う「下行刺繍音」があります。
下行刺繍音の例(ドの音に対して):
コード:C
メロディー:ド → シ(Cコードに対する下行刺繍音) → ド
刺繍音の実践的な使い方
刺繍音は、同じ音符が続くメロディーに動きや表情を加え、単調になるのを防ぐのに役立ちます。
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持続音にアクセントを: 長い音符や繰り返される音符に対して刺繍音を使うことで、その音にちょっとした揺らぎや強調が生まれます。歌や管楽器のビブラートのような効果に似ているかもしれません(ただし、ビブラートは音程の周期的な変化です)。
例:Gコード上で「ソ」の音を持続
text 元のメロディー:ソ〜 刺繍音を追加:ソ → ラ(Gコードに対する上行刺繍音) → ソ〜 または:ソ → ファ♯(Gコードに対する下行刺繍音) → ソ〜 (コード:G)
短い音価で挿入することが多いです。 -
繰り返しのフレーズにバリエーションを: シンプルな繰り返しのメロディーに、場所によって刺繍音を加えることで、フレーズに微妙な変化とニュアンスをつけることができます。
例:Cコード上で「ミ」を繰り返すメロディー
text 元のメロディー:ミ、ミ、ミ、ミ 刺繍音を追加:ミ、ファ(上行刺繍音)ミ、ミ、レ(下行刺繍音)ミ、ミ (コード:C)
演奏においては、アドリブでコードトーンを持続させる代わりに、刺繍音を使ってフレーズに表情をつけるテクニックはよく使われます。DAWでは、全く同じ音を連続させるのではなく、間に短い刺繍音を挟むことで、より人間らしい、生き生きとしたメロディーラインを表現できます。
経過音と刺繍音を使いこなすヒント
- コードとの関係を意識する: 経過音も刺繍音も、あくまでコードトーンを飾るための音です。どの音がコードトーンで、どの音がノンコードトーンなのかを常に意識しましょう。
- 使いすぎに注意: あまりに多くのノンコードトーンを使うと、かえってメロディーが不安定になったり、コードの響きが分かりにくくなったりすることがあります。効果的なポイントで少量使うことから試してみてください。
- 耳で確認する: 理論だけでなく、実際に楽器で弾いたり、DAWで打ち込んだりして、その音がメロディーやコード進行の中でどのように響くのかを耳で確かめることが最も重要です。「良いな」と感じる響きを見つけたら、それが正解です。
- スケールをヒントに: 経過音や刺繍音として使う音は、その曲のキーや使われているスケールの中の音を使うと、一般的に自然に馴染みやすいです。例えば、ハ長調の曲ならハ長調スケールの音(ドレミファソラシ)の中から選ぶ、といった具合です。
まとめ
今回は、ノンコードトーンの中でも特に基本的な「経過音」と「刺繍音」に焦点を当てて解説しました。
- 経過音: 2つのコードトーンの間を順次進行でつなぎ、メロディーに滑らかさを与えます。
- 刺繍音: あるコードトーンの隣の音へ行ってすぐ戻り、メロディーに動きや表情を加えます。
これらの音を理解し、あなたのメロディーやベースラインに少し加えるだけで、音楽の印象は大きく変わります。単調だったフレーズが、歌うように、あるいは語りかけるように生き生きとし始めるでしょう。
まずは簡単なコード進行で、今回紹介した経過音や刺繍音を試してみてください。最初は戸惑うかもしれませんが、少しずつ慣れていくうちに、自然と魅力的なメロディーやフレーズを作れるようになるはずです。音楽理論を実践に活かして、あなたの音楽表現の幅を広げていきましょう。