音楽の色合いを変える!ハーモニックマイナーとメロディックマイナーの実践活用法
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短調(マイナーキー)の響きは、長調(メジャーキー)とは異なり、どこか憂鬱さや切なさ、時には激しさといった感情を表現するのに適しています。短調の基本となるのは「自然短音階(ナチュラルマイナースケール)」ですが、実は短調には他にもよく使われるスケールがあり、これらを使い分けることで、より豊かな表現が可能になります。
この記事では、特に重要な「ハーモニックマイナースケール」と「メロディックマイナースケール」に焦点を当て、それぞれの特徴と、作曲・演奏での実践的な活用方法をご紹介します。これらのスケールを理解し、使いこなせるようになれば、あなたの音楽の「色合い」が格段に深まるはずです。
自然短音階をおさらい
まず、基本となる自然短音階を確認しましょう。例えば、ハ短調(Cマイナー)の自然短音階は「ド、レ、ミ♭、ファ、ソ、ラ♭、シ♭、ド」となります。長音階の第3音、第6音、第7音が半音下がった形です。
このスケールを使ってコードを作ると、短調らしい響きが得られますが、長調のような「ドミナントモーション」と呼ばれる、属七の和音(V7)から主和音(Im)へ解決する強い進行が得られません。例えば、ハ短調のVのコードはGm(ソ、シ♭、レ)となり、ここからCm(ド、ミ♭、ソ)への解決感は少し弱く感じられます。
この解決感を強めるために生まれたのが、これからご紹介するハーモニックマイナーとメロディックマイナーです。
ハーモニックマイナースケールとその実践活用法
ハーモニックマイナースケールは、自然短音階の第7音を半音上げたスケールです。
ハ短調のハーモニックマイナースケールは、「ド、レ、ミ♭、ファ、ソ、ラ♭、シ、ド」となります。(自然短音階のシ♭がシになっています)
このスケールの最大の特徴は、第6音と第7音の間隔が「増2度」になることです。ハ短調であれば、ラ♭とシの間が増2度になります。この増2度音程は、エキゾチックでドラマチックな響きを持っています。
また、第7音を半音上げたことにより、Vの和音(ソ、シ、レ)が長三和音(G)や属七の和音(G7)となり、Im(Cm)への強い解決感(ドミナントモーション)を生み出すことができるようになります。
実践活用例1:メロディーにドラマを
メロディーにハーモニックマイナースケールを取り入れると、特徴的な増2度の響きが加わり、ドラマチックな雰囲気を出すことができます。特に、主音(ルート)に向かって上行するフレーズで第7音(シ)を使う際に、その手前のラ♭を組み合わせると効果的です。
例(ハ短調):
... ラ♭ → シ → ド
(A♭ → B → C)
この「ラ♭ → シ」の間が増2度です。この音程の飛び方や、シからドへの半音進行が、強い推進力を生み出します。
実践活用例2:コード進行に推進力を
ハーモニックマイナースケールから生まれる最も重要なコードは、V7です。短調でもV7を使うことで、長調のような強いカデンツ(終止形)を作ることができます。
例(ハ短調):
Am7(♭5) → G7 → Cm
(IIm7(♭5) → V7 → Im)
この G7 → Cm
が、ハーモニックマイナーから得られる代表的な解決です。自然短音階だけでは得られない強い終止感を得られます。
DAWで作曲する際、短調のV7コード(例:ハ短調のG7)を入力すると、自然にこのハーモニックマイナーの響きを借りていることになります。メロディーを作る際も、このV7コードの上で第7音(シ)を使うと、よりコードに馴染むメロディーになります。
メロディックマイナースケールとその実践活用法
メロディックマイナースケールは、ハーモニックマイナースケールの増2度をなくし、より滑らかなメロディーを作るために考え出されました。大きな特徴として、上行形と下行形で音が異なります。
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上行形: 自然短音階の第6音と第7音を両方半音上げたスケールです。 ハ短調の上行形は「ド、レ、ミ♭、ファ、ソ、ラ、シ、ド」となります。(自然短音階のラ♭とシ♭がラとシになっています) これは、主音から上の音は長音階と同じ並び(ソラシド)になります。明るさと推進力を持った響きです。
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下行形: 自然短音階と全く同じです。 ハ短調の下行形は「ド、シ♭、ラ♭、ソ、ファ、ミ♭、レ、ド」となります。 これは、自然短音階らしい、落ち着いた、あるいは憂鬱な響きです。
実践活用例1:メロディーの上行・下行で使い分け
名前が「メロディック」である通り、メロディーの滑らかさを重視したスケールです。特に、主音に向かって上行するメロディーではメロディックマイナー上行形がよく使われます。これにより、ハーモニックマイナーの増2度のような急な音程の飛び方ではなく、滑らかに主音へ到達できます。
例(ハ短調、上行):
... ファ → ソ → ラ → シ → ド
(F → G → A → B → C)
(自然短音階なら「ファ→ソ→ラ♭→シ♭→ド」、ハーモニックマイナーなら「ファ→ソ→ラ♭→シ→ド」)
上行形では「ソラシド」の部分が長音階と同じ滑らかな響きになります。
逆に、主音から下行するメロディーでは、落ち着いた自然短音階と同じ響きを持つメロディックマイナー下行形が使われることが一般的です。
例(ハ短調、下行):
ド → シ♭ → ラ♭ → ソ → ファ ...
(C → B♭ → A♭ → G → F ...)
実践活用例2:上行形由来のコード活用
メロディックマイナー上行形からは、自然短音階やハーモニックマイナーからは得られない独特な響きのコードが生まれます。例えば、第IIm7(♭5)(II diminished 7)の代わりに、メロディックマイナー上行形由来のIIm7(Dm7♭5ではなくDm7)や、IVm7(Fm7)の代わりにIV7(F7)などが考えられますが、これらは少し専門的な話になるため、まずは「上行するメロディーで使うとスムーズ」という点を意識することから始めるのが良いでしょう。
DAWなどでは、特定のコードに対してメロディーラインのスケールを指定する機能がある場合、メロディックマイナーを選択することで、上行時に自然に上行形、下行時に下行形の音を選択肢として示してくれることがあります。
3つの短音階をブレンドして使う
実際の楽曲では、これら3つの短音階を厳密に使い分けるというよりは、コード進行やメロディーの流れに応じて、必要な音を必要な場所で使う、という考え方が一般的です。
- 自然短音階: 短調の基本的な響き、落ち着いた雰囲気。特に下行するメロディーや、強進行を必要としない場面でよく使われます。
- ハーモニックマイナー: V7コードを作り、強いドミナントモーションを生み出します。また、増2度を含むメロディーでドラマチックな効果を狙う場合に使われます。
- メロディックマイナー: 上行するメロディーを滑らかにします。上行形由来のコードを使うことで、短調の中に明るく浮遊感のある響きを加えることもあります。
例えば、カデンツ(終止)の部分ではハーモニックマイナーやメロディックマイナー上行形由来の音(第7音、場合によっては第6音)が使われ、それ以外の部分では自然短音階の音が使われる、といった形です。
コード進行に合わせてメロディーを作る際は、コードの構成音はもちろん、そのコードが属するキーの自然短音階、そして必要に応じてハーモニックマイナーやメロディックマイナー上行形の音を「選択肢」として考えながらフレーズを組み立ててみてください。特に、V7コードの上ではハーモニックマイナーの音(第7音)を使うと、より自然な解決感が得られます。
まとめ
短調には、自然短音階に加えてハーモニックマイナースケール、メロディックマイナースケール(上行形・下行形)という重要なスケールが存在します。
- ハーモニックマイナー: 第7音を半音上げる。V7コードを作り、強い終止感を出す。増2度音程が特徴的なメロディーを作る。
- メロディックマイナー上行形: 第6音・第7音を半音上げる。上行メロディーを滑らかにする。
- メロディックマイナー下行形: 自然短音階と同じ。下行メロディーを落ち着かせる。
これらのスケールは、短調の楽曲に多様な表情と動きを与えるための強力なツールです。まずは、好きな短調の曲を聞いて、どの音(特に第6音と第7音)が使われているか耳を澄ませてみたり、DAWの打ち込みや楽器での練習でこれらのスケールを実際に弾いてみて、響きの違いを感じてみてください。
そして、簡単な短調のコード進行に、これらのスケールを使ってメロディーをつけてみる練習をしてみましょう。自然短音階では少し物足りなかった部分に、ハーモニックマイナーの緊張感や、メロディックマイナー上行形の滑らかさが加わることで、きっとあなたの音楽の表現力が豊かになるはずです。
この記事が、あなたの音楽制作や演奏の実践に役立つ一助となれば幸いです。