音楽理論実践ノート

コード進行を滑らかに!共通音とトップノートを活用した実践テクニック

Tags: コード進行, ボイシング, 共通音, トップノート, 実践

音楽理論を学び始めた皆さん、こんにちは。「音楽理論実践ノート」編集部です。

今回は、作ったコード進行がどこかぎこちなく感じる、もっとプロっぽい洗練された響きにしたい、という悩みをお持ちの方へ向けて、コード間のつながりを滑らかにするための実践的なテクニックをご紹介します。

鍵となるのは、「共通音(Common Tone)」と「トップノート(Top Note)」という二つの要素です。これらを意識するだけで、あなたのコード進行は格段に聴き心地の良いものに変わるでしょう。

コード進行の「滑らかさ」とは?

コード進行は、複数のコードが時間とともに移り変わっていく流れです。この移り変わりが自然でスムーズであると、音楽全体が耳馴染み良く、聴き手に心地よい印象を与えます。逆に、コードが唐突に切り替わると、どこか不自然に聴こえてしまうことがあります。

この「滑らかさ」は、主に各コードの構成音が次のコードの構成音へどのように連結するかによって生まれます。特に重要なのが、各コードに含まれる共通の音と、それぞれのコードの最も高い音(トップノート)の動きです。

共通音(Common Tone)を活用する

「共通音」とは、連続する二つのコードに共通して含まれている音のことです。この共通音を意識的に同じ音のまま保つことで、コードの移り変わりが非常にスムーズになります。

例えば、Cメジャーセブンス(Cmaj7)からAマイナーセブンス(Am7)へ移るコード進行を考えてみましょう。

この二つのコードには、「ド」「ミ」「ソ」という3つの音が共通して含まれていますね。

もし、Cmaj7 を「ド、ミ、ソ、シ」と下から順に積み上げた形で弾き(ルートポジションに近い形)、次に Am7 を「ラ、ド、ミ、ソ」と弾くと、ベース音(ルート)は C から A へ下がりますが、それ以外の音は Cmaj7 のソとシが Am7 では使われず、Am7 のラが新しく出てくる形になります。これでも良いのですが、共通音を意識してみましょう。

Cmaj7 を弾いた時の「ド」「ミ」「ソ」を、Am7 を弾く際も同じオクターブの位置で鳴らし続けるように、Am7 の構成音を配置(ボイシング)してみます。例えば、Cmaj7 を「低いド、ミ、ソ、シ」と弾いた後、Am7 を「ラ、ド、ミ、ソ」と、共通音の「ド、ミ、ソ」をできるだけ近い(あるいは同じ)位置で弾くように指使いや鍵盤の配置を工夫します。

このように、共通音を動かさずに保つことで、音の動きが最小限になり、コードのつながりがより自然に耳に馴染みます。特にバラードなど、落ち着いた雰囲気の楽曲でこのテクニックは非常に効果的です。

実践のヒント: * ピアノ/ギター: コードを押さえる際に、前のコードと共通する音があれば、その指はその音を押さえたまま、他の指だけを動かして次のコードに移行することを意識してみましょう。 * DAW: MIDIエディターで打ち込みをする際、連続するコードの各構成音を確認し、共通音がある場合は、その音符を同じ高さに配置してみましょう。

トップノート(Top Note)を意識する

「トップノート」とは、そのコードを構成する音の中で、最も高い位置にある音のことです。コード進行全体をメロディーのように捉えたとき、トップノートの動きは聴き手の耳に非常に残りやすく、コード進行の印象を大きく左右します。

トップノートが半音階的(ド→ド#→レのように半音ずつ)や全音階的(ド→レ→ミのように全音ずつ)にスムーズに動くようにコードのボイシング(構成音の積み方や配置)を選ぶと、コード進行全体が滑らかに聴こえます。

例えば、Cメジャーのキーで、Dm7 → G7 → Cmaj7 という終止(カデンツ)を考えてみましょう。

基本的なボイシングの場合、トップノートは以下のようになるかもしれません。

コード : Dm7  → G7  → Cmaj7
構成音 : レファラド ソシレファ ドミソシ
トップノート: ド   → ファ  → シ

この場合、トップノートは「ド → ファ → シ」と動いています。これでも悪くはありませんが、もう少し滑らかにできないか考えてみます。

トップノートをスムーズに動かすように、コードの構成音の順番を入れ替えて(転回形なども利用して)みます。

コード : Dm7  → G7  → Cmaj7
ボイシング例: ラドレファ ソシレファ ミソシド
トップノート: ファ   → ファ  → ド

この例では、Dm7とG7のトップノートが「ファ」で共通しています(共通音の意識にもつながります)。そして、G7のファからCmaj7のドへ動いています。

別の例として、Dm7のボイシングを工夫してみましょう。

コード : Dm7  → G7  → Cmaj7
ボイシング例: ドファラレ シレファソ ドミソシ
トップノート: レ   → ソ   → シ

この例のトップノートは「レ → ソ → シ」です。これもスムーズとは言えません。

ここで、G7の構成音にセブンス(短7度)の音である「ファ」が含まれていることに注目します。このファは、Cmaj7の構成音「ミ」へ半音で解決(スムーズに移動)することができます。この動きをトップノートに持ってくるとどうなるでしょう?

コード : Dm7  → G7  → Cmaj7
ボイシング例: ラドレファ ソシレファ ミソシド
トップノート: ファ   → ファ  → ド

よりスムーズなトップノートの例(G7の構成音を少し変えてみる):
コード : Dm7  → G7  → Cmaj7
ボイシング例: ラドレファ シレファソ ミソシド
トップノート: ファ   → ファ(G7のセブンス) → ミ(Cmaj7の3度)

(※上の例はテキスト表現の限界がありますが、Dm7のファ音をトップに置き、G7のセブンス音であるファ音をトップに置き、Cmaj7の第3音ミ音をトップに置く、という動きを意識しています。)

G7の「ファ」からCmaj7の「ミ」への半音の動きは、非常にスムーズで安定感のある響きを生みます。これは、G7のセブンス音(属七音)が主音の短七度下または長二度上にあり、トニック(Cmaj7)の第三音(ミ)へ解決したがる性質(ガイドトーンの動き)を利用したものでもあります。

トップノートのラインを意識することは、コード進行自体にメロディーラインのような聴きやすさを加えることになります。

実践のヒント: * 作曲: コード進行を考えたら、それぞれのコードを様々な形で積み重ねてみて(ボイシング)、トップノートのラインが滑らかにつながるかをチェックしてみましょう。メロディーを作るときに、コードのトップノートを参考にしたり、トップノートが滑らかになるようにコードを選び直したりすることも有効です。 * 楽器演奏: コードの練習をする際に、様々な転回形を試し、トップノートの音が自然につながる指使いやフォームを探してみましょう。 * DAW: MIDIエディターで打ち込みをしたら、各コードの一番高い音だけを抜き出して(あるいは耳で追って)、その音の並びがスムーズか確認してみましょう。必要であれば、コードの構成音の配置を調整して、トップノートを移動させます。

共通音とトップノートを組み合わせて使う

共通音を保ちつつ、トップノートを滑らかに動かす、この二つを同時に意識することで、より洗練された自然なコード進行を作ることができます。

例えば、Cmaj7 → Am7 → Dm7 → G7 → Cmaj7 のコード進行を、共通音と滑らかなトップノートを意識してボイシングしてみましょう。

コード : Cmaj7  → Am7   → Dm7   → G7    → Cmaj7
ボイシング例: ソシドミ  ミソラド  ファラドレ レソシファ ミソシド
トップノート: ミ   → ド   → レ   → ファ   → ド
共通音の例: Cmaj7 (ミソド) → Am7 (ミソド)
       Am7 (ド) → Dm7 (ド)
       Dm7 (レファ) → G7 (レファ)
       G7 (ソシド) → Cmaj7 (ソシド)

(※上記のボイシング例はあくまで一例であり、テキスト表現の限界があるため、実際の響きは楽器やDAWで試してみてください。)

この例では、多くのコード間で共通音が保たれています。そしてトップノートは「ミ → ド → レ → ファ → ド」と動いています。完全に滑らかとは言えませんが、各コードの構成音をバラバラに動かすよりも、遥かに自然なつながりになります。

特に、Dm7 → G7 → Cmaj7 の部分は、Dm7のトップノートがレ、G7のトップノートがファ、Cmaj7のトップノートがドとなっています。G7のファからCmaj7のドへの移動はスムーズです。また、G7のシ音はCmaj7のド音へ、G7のファ音はCmaj7のミ音へ、G7のレ音はCmaj7のド音へ、とスムーズに解決する動き(ガイドトーン)が含まれており、これも滑らかさに貢献しています。

共通音とトップノート、それぞれの視点を持つことで、コード進行の隠れたつながりが見えてくるはずです。

まとめ

コード進行を滑らかにするための共通音とトップノートの活用法をご紹介しました。

これらのテクニックを意識するだけで、あなたの作る・演奏する音楽の響きは大きく変わるはずです。まずは簡単なコード進行で、共通音やトップノートを意識したボイシングを色々と試してみてください。DAWでの打ち込みや、楽器での練習を通して、耳で響きを確認しながら感覚を掴んでいくことが大切です。

実践を積み重ねて、より豊かな音楽表現を目指しましょう。