コードの響きが変わる！転回形（インバージョン）のやさしい使い方と実践
コードの響きが変わる！転回形（インバージョン）のやさしい使い方と実践
音楽におけるコードの響きは、構成音だけでなく、その並び方や一番低い音（ベース音）が何であるかによって大きく変化します。特に、コードの「転回形」を理解し活用することで、コード進行に滑らかさや変化を与えることができ、作曲や演奏の幅が格段に広がります。
この記事では、コードの転回形の基本的な考え方から、具体的な作曲や演奏への応用方法までを分かりやすく解説します。
転回形とは？ 基本をおさえましょう
コードは、通常「ルート」（根音）が一番低い音に来る形で考えますが、それ以外の音が一番低い音になる場合があります。この状態を「転回形」と呼びます。
コードの構成音は同じでも、どの音が一番低い音（ベース音）になるかによって、響きや安定感が変わります。
基本的な転回形の種類
三和音（3つの音で構成されるコード）を例に見てみましょう。ここではCメジャーコード (C - E - G) を考えます。
-
基本形（ルートポジション）
- 一番低い音がルート（C）である状態です。
- 安定した響きを持ちます。
- 表記例：
C - 音の並び（下から）：C - E - G
-
第一転回形（First Inversion）
- 一番低い音がコードの3rd（E）である状態です。
- 基本形よりも少し浮遊感のある響きになります。
- 表記例：
C/E（「C over E」と読み、ベース音がEであることを示します） - 音の並び（下から）：E - G - C
-
第二転回形（Second Inversion）
- 一番低い音がコードの5th（G）である状態です。
- 基本形や第一転回形とは異なる、少し不安定な、次のコードへの流れを作りやすい響きになります。
- 表記例：
C/G - 音の並び（下から）：G - C - E
四和音（7thコードなど、4つの音で構成されるコード）の場合も同様に、第三転回形まで存在します。 （例：Cmaj7 = C - E - G - B）
- 基本形：C - E - G - B (
Cmaj7) - 第一転回形：E - G - B - C (
Cmaj7/E) - 第二転回形：G - B - C - E (
Cmaj7/G) - 第三転回形：B - C - E - G (
Cmaj7/B)
このように、コード名 / ベース音 と書くことで、そのコードの転回形、つまり一番低い音が何かを示します。これは「分数コード（オンコード）」とも呼ばれ、転回形はこの分数コード表記で表されることが多いです。
転回形を実践でどう使う？ 作曲・演奏への応用
転回形を理解する最大のメリットは、コード進行や演奏表現の可能性が広がる点です。
1. ベースラインを滑らかにする
コード進行において、基本形だけを使っているとベース音が大きく跳躍することがあります。転回形を使うことで、ベース音を近くの音に移動させ、よりスムーズな流れを作ることができます。
例1：ベースラインが滑らかになるケース
-
基本形のみの場合:
C->F->G->C- ベース音: C -> F -> G -> C
- （CからF、FからGへの跳躍があります）
-
転回形を活用した場合:
C->F/A->G/B->C- ベース音: C -> A -> B -> C
- （C→A→B→Cと、順次進行に近い滑らかな動きになります）
この「C - F/A - G/B - C」という進行は、多くの楽曲で聞かれる非常にポピュラーなベースラインの動かし方です。特にギターやピアノのバッキング、ベースパートのアレンジで威力を発揮します。DAWで打ち込む際も、基本形のコードを選んでから、一番低い音を構成音の別の音に変更することで簡単に転回形を作ることができます。
2. コードの響きに変化と彩りを与える
同じコードでも、どの音がベースになるかによって響きの印象は変わります。基本形は安定していますが、第一転回形や第二転回形は少し不安定さや浮遊感があり、楽曲に変化やニュアンスを加えるのに役立ちます。
例2：響きの違いを楽しむケース
Cコードの基本形: しっかりと安定した響きC/E(第一転回形): 3rdのEがベースに来ることで、少し明るく、前に進むような響きに聞こえることがあります。C/G(第二転回形): 5thのGがベースに来ることで、少し不安定さを含みつつ、ルートに戻りたいような解決感を伴う響きになることがあります。特にドミナントコード（Gなど）の前に置くと効果的な場合があります。
例えば、曲のセクションが変わる時や、サビの中で同じコードを繰り返す場合に、転回形を変えてみるだけで楽曲に表情が生まれます。
3. ボイシングの選択肢を増やす
転回形は、コードの構成音を下から順に並べるという考え方ですが、実際の演奏では構成音をどのように配置するか（ボイシング）は自由です。転回形を意識することで、「一番低い音はこれにしたいが、他の音はどう並べようか」というように、ボイシングの選択肢が広がります。
例えば、Cメジャーの第一転回形 C/E を弾くとき、必ずしも「E - G - C」という並びで弾く必要はありません。Eが一番低い音であれば、「E - C - G」や、もっと広い音域を使って「E - G - C (高い音)」など、様々なボイシングが考えられます。
楽器別・DAWでの実践ヒント
ギター
- 同じコードでも、様々なフォーム（押さえ方）が存在します。これは自然と転回形やボイシングを選んでいることになります。
- 例えばCメジャーコードでも、オープンコードのC、8フレット辺りのバレーコードのCなど、ベース音が異なるフォームがあります。それぞれのフォームがどの転回形にあたるか意識すると、アレンジの幅が広がります。
- ベースラインを弾く際は、開放弦や低い弦でルートを弾く基本形を軸に、次のコードのベース音が近くにある転回形を探して繋げると滑らかになります。
ピアノ
- 左手でベース音、右手でコードの他の音を弾くことが多いです。
- 左手のベース音をコードのルート以外の音（3rdや5thなど）にすることで、転回形を作ります。
- 右手のコードの積み方も自由に選べるため、転回形とボイシングを組み合わせて豊かな響きを作り出すことができます。コード進行に合わせてベース音を順次進行させる練習をすると良いでしょう。
DAW
- MIDIエディターでノートを打ち込む際に、一番低い音（最低音）がコードのどの構成音になるかを確認・調整することで転回形を作ります。
- 多くのDAWでは、コード入力をサポートする機能（コードトラック、スケールアシストなど）がありますが、転回形まで細かく指定できるかは機能によります。基本的には手動で最低音を調整するのが確実です。
- 打ち込み時には、コードの構成音と最低音の関係を意識しながら、ベースラインの流れとコードの響きの両方を検討すると良いでしょう。
まとめ
コードの転回形は、コードの構成音の中で一番低い音（ベース音）が何かによって決まる状態です。基本形、第一転回形、第二転回形などがあり、それぞれ異なる響きや安定感を持っています。
転回形を実践に活かすことで、
- ベースラインを滑らかにし、コード進行に自然な流れを作る
- 同じコードでも響きに変化を与え、楽曲に彩りを加える
- ボイシングの選択肢を増やし、より豊かなハーモニーを構築する
といったメリットが得られます。
まずは簡単なコード進行（例：C-F-G-CやAm-Dm-G-Cなど）を使って、基本形と転回形を弾き比べてみてください。特にベース音の動きに注目し、その違いを耳で確かめることが重要です。DAWでの打ち込みや、お持ちの楽器で実際に試してみることで、転回形の感覚が掴めるはずです。
転回形をマスターすれば、あなたの作曲や演奏はより洗練され、表現力豊かなものになるでしょう。ぜひ、ご自身の音楽制作に取り入れてみてください。