音楽理論実践ノート

コード進行を操る!和音の機能(トニック、サブドミナント、ドミナント)のやさしい解説と実践

Tags: コード進行, 和音の機能, トニック, サブドミナント, ドミナント, 実践

音楽を聴いていると、心地よく落ち着く場所があったり、少しドキドキして次に進みたくなるような響きがあったり、強い緊張を感じて「解決してほしい!」と思ったりすることがありますね。このような音楽の流れやドラマは、主に「コード進行」によって生み出されています。

そして、そのコード進行がなぜ特定の響きや流れを持つのかを理解するための大切な考え方が、「和音の機能(ハーモニーファンクション)」です。

この記事では、和音の中でも特に基本的な3つの機能、「トニック」「サブドミナント」「ドミナント」について、その性質と役割を分かりやすく解説します。さらに、これらの機能をどう作曲や演奏に活かせるのか、具体的な例を交えてご紹介します。

和音の機能とは?

音楽における「和音の機能」とは、それぞれの和音(コード)が持つ「役割」や「性質」のことです。単に音がいくつか同時に鳴っているだけでなく、そのキー(調)の中で、それぞれのコードがどのように響き、次にどのように進みたがるかという「意図」を持っていると考えられます。

例えるなら、物語における登場人物の役割のようなものです。主人公、脇役、物語を動かすキーパーソンなど、それぞれに役割があるから物語が成り立ちます。和音も、それぞれの機能を持つことで、コード進行という音楽の物語が紡がれていくのです。

ポピュラー音楽で最も重要とされる機能は、大きく分けて以下の3つです。

これらの機能は、長調(メジャースケール)と短調(マイナースケール)で少しずつ表情が変わりますが、基本的な役割は同じです。今回は、まず長調を例に解説を進めます。

3つの主要な機能の性質と役割

1. トニック (Tonic: T) の機能

性質: 安定、休息、解決の響き。ホームポジション。 役割: 曲の始まりや終わり、または区切りとして安定感を与える役割を持ちます。ここに戻ってくると、安心感や落ち着きを感じます。

長調(Cメジャーなど)における代表的なトニック機能のコードは、そのキーの第1音(主音)をルートとする三和音、つまりI(ローマ数字でイチ)のコードです。例えばCメジャーキーなら C コード(C-E-G)がIコードで、最も安定した響きを持ちます。

また、同じトニック機能を持つコードとして、第6音をルートとする三和音vi(ロクマイナー)コードがあります。Cメジャーキーなら Am コード(A-C-E)です。viコードはIコードほど完全な安定ではありませんが、Iコードと同じように安定した響きを持ち、曲中で休息感を与えたり、少し憂いを帯びた響きを加えたりするのに使われます。

2. サブドミナント (Subdominant: SD) の機能

性質: 動き出す準備、経過、浮遊感の響き。トニックからの「出発」の響き。 役割: トニックからの安定感を少し崩し、音楽に動きを与える役割を持ちます。ドミナントへ向かう橋渡しとしてもよく使われます。

長調における代表的なサブドミナント機能のコードは、そのキーの第4音をルートとする三和音IV(ヨン)のコードです。Cメジャーキーなら F コード(F-A-C)です。

他にサブドミナント機能を持つコードとして、第2音をルートとする三和音ii(ニマイナー)コードがあります。Cメジャーキーなら Dm コード(D-F-A)です。iiコードはIVコードと同様にSD機能を持つだけでなく、次にドミナントのVコードへ自然につながる性質も持っています(特にii7→V7という進行)。

3. ドミナント (Dominant: D) の機能

性質: 強い緊張、解決への指向性、不安定さ。トニックへの「到着」を強く予感させる響き。 役割: 音楽に最も強い緊張感を与え、トニックへの解決を強く促す役割を持ちます。この機能のコードの後には、多くの場合トニック機能のコードが続きます。

長調における代表的なドミナント機能のコードは、そのキーの第5音をルートとする三和音V(ゴー)のコードです。Cメジャーキーなら G コード(G-B-D)です。

特に、Vコードにセブンス(7th)の音を加えたV7コードは、さらに強い解決への指向性を持ちます。Cメジャーキーなら G7 コード(G-B-D-F)です。このFの音(キーの第4音)とG7のルート音Gの間の三全音(トライトーン)という不安定な響きが、トニックのCコードへの解決を強く求める響きを生み出します。

他にドミナント機能を持つコードとして、第7音をルートとする三和音vii°(ナナディミニッシュ)コードがあります。Cメジャーキーなら Bdim コード(B-D-F)です。これもV7と同様に三全音を含み、トニックへの解決を促す性質があります。

機能を使ったコード進行の基本パターン

これらの3つの機能を順番に使うことで、自然で心地よいコード進行の基本的な流れを作ることができます。最も代表的なパターンは以下の通りです。

T → SD → D → T

このパターンをCメジャーキーの代表的なコードで見てみましょう。

| C     | F     | G     | C     |
| (T)   | (SD)  | (D)   | (T)   |

これは、多くの楽曲で使われている非常にポピュラーなコード進行の骨組みです。

このように、機能の流れを意識すると、コード進行に「始まり→中盤→終わり」のようなストーリーが生まれるのが分かります。

この基本パターンの他にも、

なども基本的な機能の流れを使った進行です。

和音の機能を作曲や演奏に活かす

和音の機能を知ることは、あなたの音楽制作や演奏を次のレベルに進めるための強力なツールになります。

作曲への応用

  1. 意図を持ってコード進行を作る: 「ここで安定させたいな」「次に進むような感じを出したいな」「クライマックスで強い解決感を出したいな」といった曲の展開に合わせて、適切な機能のコードを選んでみましょう。

    • 曲の始まりや終わりにはT機能のコードを使う。
    • サビに向かう盛り上がりではSDやD機能のコードを使って緊張感を高める。
    • 静かなAメロではTやSDのコードをゆったり使う。
    • 知っている曲のコード進行を、それぞれのコードがどの機能を持っているか分析してみるのも勉強になります。定番のT→SD→D→T以外にも、T→D→SD→Tなど、機能を入れ替えた進行がどんな響きになるか試してみるのも面白いです。
  2. コード進行のバリエーションを増やす: 同じ機能を持つ別のコード(例:SD機能を持つIVとii)を入れ替えてみることで、響きに変化をつけることができます。

    • CメジャーキーのT→SD→D→T進行
      • | C | F | G | C | (T→SD→D→T)
      • | C | Dm | G | C | (T→SD→D→T - SDをiiに変更)
      • | Am | F | G | C | (T→SD→D→T - Tをviに変更) このように、基本の機能の流れは変えずに、中のコードを入れ替えるだけで曲の雰囲気を変えることができます。

演奏やアドリブへの応用

  1. コード進行の流れを予測しやすくなる: 次にどんな機能のコードが来やすいか予測できるようになるため、アンサンブルでの対応がスムーズになったり、初見のコード進行にも対応しやすくなります。

    • D機能のコード(VやV7)が来たら、次はT機能のコード(Iやvi)に解決する可能性が高い、といった予測が立てられます。
  2. コードトーンやスケール選びのヒント: それぞれの機能のコードが持つ「安定」「緊張」といった性質を意識して、演奏やアドリブにニュアンスを加えられます。

    • T機能のコードが鳴っているときは、キーの主音などを強調して落ち着いたフレーズを弾く。
    • D機能のコードが鳴っているときは、解決を予感させるような少し不安定な響きの音(V7のセブンスなど)をフレーズに含ませて、次にTコードに移ったときに解決感を出す。

まとめ

今回は、音楽理論の基礎中の基礎である「和音の機能」の中から、特に重要な「トニック (T)」「サブドミナント (SD)」「ドミナント (D)」について解説しました。

これらの機能を知ることは、単にコードの名前や構成音を覚えるだけでなく、「なぜこのコードがここで使われているのか」「このコード進行はどんな意図で作られているのか」といった、コード進行の背後にある考え方を理解するための第一歩です。

ぜひ、ご自身の好きな曲のコード進行を分析してみたり、簡単なコード進行を作ってみる際にこれらの機能を意識してみてください。少しずつでも実践に取り入れていくことで、きっと作曲や演奏の幅が広がるはずです。

音楽理論は、音楽をより深く理解し、より自由に表現するためのツールです。焦らず、楽しみながら学んでいきましょう。