コード進行の響きを深める!テンション、分数コード、借用和音のやさしい活用術
シンプルなコード進行を、もっと表現豊かに
音楽制作や演奏において、コード進行は曲の土台となります。基本的なダイアトニックコードを使ったシンプルなコード進行でも、十分に楽曲を成り立たせることは可能です。しかし、少し工夫を加えるだけで、コードの響きはぐっと豊かになり、曲の表現力や雰囲気を大きく変えることができます。
この記事では、いつものコード進行に深みと彩りを加えるための実践的なテクニックとして、テンションコード、分数コード(オンコード)、そして借用和音のやさしい活用方法をご紹介します。これらの要素を取り入れることで、あなたの音楽表現の幅が広がるはずです。
基本となるシンプルなコード進行
まずは、出発点となる基本的なコード進行を見てみましょう。今回はCメジャーキーの定番進行を例にとります。
【シンプルなコード進行例】
C - G - Am - Em - F - C - Dm - G
これはCメジャーキーのダイアトニックコードだけで構成された、非常によく使われるコード進行です。安定していて耳馴染みが良いですが、少し単調に聞こえることもあるかもしれません。
この進行をベースに、これからご紹介するテクニックを加えてみましょう。
1. テンションコードで洗練された響きを加える
テンションコードは、コードのルート音から数えて9度、11度、13度などの音を加えたコードです。これらの音はコードの基本的な響きを壊さずに、より複雑で洗練された、あるいは浮遊感のある響きを加えることができます。
テンションをどのコードに加えるか、どのようなテンションを使うかによって、曲の雰囲気は大きく変わります。
【実践例:テンションコードの追加】
上記のコード進行例にテンションを加えてみましょう。
Cmaj7(9) - G7(13) - Am7 - Em7 - Fmaj7(9) - Cmaj7 - Dm7(11) - G7(9)
Cmaj7(9)
: Cmaj7に9度のDの音を加えることで、明るく広がりがある響きになります。G7(13)
: G7に13度のEの音を加えると、ジャズなどでよく聞かれる、浮遊感と解決に向かう期待感のある響きになります。Fmaj7(9)
: Fmaj7に9度のGの音を加えることで、柔らかく豊かな響きになります。Dm7(11)
: Dm7に11度のGの音を加えると、少し切ない、響きに厚みのある感じになります。G7(9)
: G7に9度のAの音を加えると、一般的なドミナントセブンスよりも柔らかく、スムーズに解決する響きになります。
このように、主要なコードにテンションを加えるだけで、コード進行全体の印象が変化します。どのテンションを加えるかは、そのコードが持つ機能や、次にくるコードとの関係性、そして何よりあなたが作りたい雰囲気によって選びましょう。まずは試しに、コードに「(9)」や「(13)」などを書き加えて、DAWのピアノロールで音を足したり、楽器で実際に弾いてみたりするのがおすすめです。
2. 分数コード(オンコード)でベースラインに動きを作る
分数コード(オンコード)は、「C/G」のように「コード/ベース音」と表記されるものです。これは「コードはCだが、一番低い音(ベース音)はGにして弾いてください」という意味です。通常、コードのルート音がベースに来ますが、分数コードを使うことで、ベースラインに滑らかな動きや意図的な不協和感、響きの変化を加えることができます。
特に、コード進行がつながる際に、ベース音が半音や全音で滑らかに動くように分数コードを使うと、曲に美しい流れが生まれます。
【実践例:分数コードの追加】
上記のコード進行例の「Am - Em - F」の部分に注目してみましょう。
Am - Em - F
この部分を分数コードを使って変化させます。
Am - Am/G - F
Am/G
: Amコード(A-C-E)ですが、ベース音をGにします。前のAm(ベースA)から、次のAm/G(ベースG)へ、ベース音が全音下がります。そして次のF(ベースF)へ、さらに全音下がります。
これにより、ベースラインが「A → G → F」と滑らかに下降する動きが生まれます。元の「Am - Em - F」ではベースラインが「A → E → F」と少し飛んでいましたが、分数コードを使うことで、より自然で心地よいベースの流れを作り出すことができます。
特に、同じコードが続く場合に分数コードでベース音を変える(例:C - C/B - Am)といった使い方は、定番テクニックの一つです。ベースラインの動きを意識することで、コード進行全体の安定感や方向性をコントロールできます。
3. 借用和音で感情表現に深みを出す
借用和音は、その曲のキー(調)のダイアトニックコードではないけれど、並行調や同主調など、関連のある他の調から一時的に借りてくるコードです。借用和音を使うと、曲に一時的な陰りや明るさ、意外性やドラマチックな変化を加えることができ、感情表現の幅が大きく広がります。
例えば、Cメジャーキー(ハ長調)の曲なのに、Cmキー(ハ短調、同主調)からコードを借りてくる、といった使い方です。
【実践例:借用和音の追加】
再び、上記のコード進行例の「F - C」の部分に借用和音を加えてみましょう。
F - C
この部分にCmキーからFmコードを借用します。
F - Fm - C
Fm
: Cメジャーキーのダイアトニックコードではありません(CメジャーのIVはFmaj)。CmキーのIVmにあたるFmコード(F-Ab-C)を一時的に使用します。FmajからFmへの変化は、それまで明るかった雰囲気に一時的な陰りや切なさを加える効果があります。その後のCコードに戻ることで、元の明るさが際立ち、より印象的な響きになります。
他にも、CメジャーキーでDm7-5(ハーフディミニッシュ)やAbmaj7などの借用和音を使うこともよくあります。
Dm7-5
(Dbmaj7に解決するなど):短調のii度m7-5で、ジャズやボサノバでよく使われます。少し不安定で浮遊感のある響き。Abmaj7
(G7に解決するなど):短調のVIbM7で、非常に豊かな響きを持ち、意外性や感動的な雰囲気を演出できます。
借用和音は、聴き慣れたダイアトニックコードの流れの中に非日常的な響きを挿入することで、聴く人の耳を引きつけ、楽曲に感情的な抑揚を与えます。使いすぎるとまとまりがなくなってしまうこともありますが、効果的に配置することで、曲の魅力を飛躍的に高めることができます。
これらのテクニックを組み合わせてみよう
ご紹介したテンションコード、分数コード、借用和音は、それぞれ単独でも効果がありますが、組み合わせて使うことで、さらに複雑で豊かな響きを作り出すことができます。
【組み合わせ例】
Cmaj7(9) - G7(13) - Am7 - Am/G - Fm - Cmaj7(9) - Dm7(11) - G7sus4(9) - G7(9, b13) - Cmaj9
- 元の進行にテンション、分数コード、借用和音を様々に加えてみました。
G7sus4(9) - G7(9, b13)
の部分は、ドミナントコードの前にsus4を入れて解決を遅らせ、さらにテンションも加えて複雑な響きにしています。
このように、様々な要素を組み合わせることで、同じコード進行でも全く異なる雰囲気になります。最初は難しく感じるかもしれませんが、一つずつ、そして少しずつ要素を加えて音を確かめてみてください。
実践へのヒント:耳と楽器(またはDAW)で確かめる
音楽理論は、頭で理解するだけでなく、実際に音として確認することが最も重要です。
- 既存の曲を分析する: 好きな曲のコード譜を見て、「なぜここでこのコードが使われているんだろう?」「これは借用和音かな?テンションかな?」と考えてみましょう。耳で聴いて響きを確認するのも良い練習です。
- 楽器やDAWで試す: 紹介したコード進行やテクニックを、ご自身の楽器で弾いてみたり、DAWのMIDIトラックに打ち込んでみたりしてください。楽譜上の記号ではなく、実際の響きを耳で覚えることが、応用への近道です。DAWを使えば、様々なテンションや分数コード、借用和音を簡単に試すことができます。
- 少しずつ取り入れる: いきなり全てのコードを複雑にする必要はありません。まずは曲の中の特定のコード(特にキーに戻る前のドミナントコードや、盛り上げたい部分など)にテンションを加えてみる、ベースラインを滑らかにするために分数コードを使ってみる、といった形で少しずつ取り入れてみましょう。
まとめ
この記事では、シンプルなコード進行をより豊かな響きにするための実践テクニックとして、テンションコード、分数コード、借用和音の活用方法をご紹介しました。
- テンションコード: コードに特定の音(9度、11度、13度など)を加え、洗練された響きや浮遊感を演出します。
- 分数コード: ベース音をルート以外にすることで、ベースラインに滑らかな動きや変化を与えます。
- 借用和音: 他の調からコードを一時的に借りることで、曲に感情的な深みや意外性を加えます。
これらのテクニックは、音楽理論の知識を直接、作曲やアレンジ、演奏に応用できる強力なツールです。まずは、ご自身の好きなコード進行や、今制作中の楽曲に、これらのテクニックを試してみてください。音の響きを楽しみながら実践することが、音楽理論を学ぶ上で何よりも大切ですし、新しい発見があるはずです。
これらの知識が、あなたの音楽制作や演奏の可能性を広げる一助となれば幸いです。