曲に安定感と流れを生む!カデンツ(終止形)の使い方
音楽の「句読点」を知る:カデンツ(終止形)とは?
音楽を聴いていると、「ここで一段落だな」「曲が終わるな」と感じる瞬間があります。これは、コード進行が特定のパターンで進行し、終結感や区切りを生み出しているためです。この「終結感」や「区切り」を作るコード進行のパターンのことを、カデンツ(Cadence)、または終止形と呼びます。
カデンツは、まるで文章における句読点のような役割を果たします。曲のフレーズやセクションの終わり、あるいは曲全体の終わりを示すことで、音楽に安定感や流れ、そして次に進む推進力を与えるのです。
カデンツを理解し、使いこなすことは、コード進行を作る上で非常に重要です。自分が意図する区切り方や雰囲気を効果的に表現できるようになります。この記事では、代表的なカデンツの種類と、それぞれの使い方について分かりやすく解説します。
代表的なカデンツの種類と特徴
カデンツにはいくつか種類がありますが、まずは特に重要でよく使われる3つのカデンツを見てみましょう。ここでは、最も基本的なキーであるハ長調(Cメジャー)を例に解説します。
1. 正格終止(Authentic Cadence)
最も一般的で、強い終止感を持つカデンツです。特に、V(ドミナント)のコードから I(トニック)のコードへ進行するパターンを指します。V7(ドミナント・セブンス)コードからIへ進行することが多いです。
- 基本的な形: V → I
- よく使われる形: V7 → I
ハ長調(Cメジャー)の場合:
* Vコードは Gメジャー、Iコードは Cメジャーです。G → C
* V7コードは G7、Iコードは Cメジャーです。G7 → C
コード進行例(ハ長調):
C | F | G | **C**
(最後の G → C が正格終止)
Am | Dm | G7 | **C**
(最後の G7 → C が正格終止)
特徴と与える印象: 安定した、しっかりと終わった、解決したという印象を与えます。曲の最後の締めくくりや、サビの終わりに使われることが多いです。V7コードを使うと、より解決感が強くなります。
2. 変格終止(Plagal Cadence)
「アーメン終止」とも呼ばれるカデンツです。IV(サブドミナント)のコードから I(トニック)のコードへ進行するパターンです。
- 基本的な形: IV → I
ハ長調(Cメジャー)の場合:
* IVコードは Fメジャー、Iコードは Cメジャーです。F → C
コード進行例(ハ長調):
C | G | Am | **F | C**
(最後の F → C が変格終止)
特徴と与える印象: 正格終止ほど強い終止感はありませんが、穏やかで落ち着いた終止感を与えます。讃美歌の最後に「アーメン」と歌われる部分によく使われることから、アーメン終止と呼ばれます。曲のエピローグや、静かに終わりたい場面などで効果的です。
3. 偽終止(Deceptive Cadence)
その名の通り、「期待を裏切る」終止形です。V(ドミナント)または V7 から、I ではないコード(特に vi/VI)へ進行するパターンです。最も一般的なのは V7 → vi です。
- 基本的な形: V(7) → I 以外のコード(特に vi/VI)
ハ長調(Cメジャー)の場合:
* V7コードは G7、viコードは Am(エーマイナー)です。G7 → Am
コード進行例(ハ長調):
C | F | G7 | **Am**
(最後の G7 → Am が偽終止)
特徴と与える印象: 正格終止で I へ解決することを期待させておきながら、別のコードへ進行するため、意外性や次に繋がる感じ、未解決な印象を与えます。曲の途中で緊張感を維持したい場面や、変化をつけたい場面で効果的に使われます。
その他(半終止など)
他にも、I や他のコードから V で終わる半終止(Half Cadence)(例:F → G)など、さまざまなカデンツがあります。半終止は、一時的な区切りや、次に I へ解決することを期待させる効果があります。これらのカデンツを組み合わせることで、より多彩な音楽の流れを作ることができます。
カデンツを実践に活かす方法
学んだカデンツの知識を、実際に作曲や演奏にどのように活かせるでしょうか?
1. 作曲で「区切り」を作る
- フレーズやセクションの終わり: Aメロ、Bメロ、サビなどの各セクションの最後に、適切なカデンツを使うことで、構成を明確にできます。
- 例:Aメロの終わりは半終止(Gで終わる)で次のBメロへ繋げる。
- 例:サビの終わりは正格終止(G7 → C)で力強く締めくくる。
- 例:曲のエンディングは、最後に変格終止(F → C)で穏やかに終える。
- 緊張と緩和のコントロール: 偽終止を使うと、聴き手の期待を裏切り、緊張感を維持したり、意外な展開を作ったりできます。この未解決な感じを利用して、次のセクションへ自然に誘導することも可能です。
- コード進行のバリエーション: 同じメロディーでも、終わりに使うカデンツを変えるだけで、雰囲気が大きく変わります。様々なカデンツを試して、曲に合った響きを見つけてみましょう。
2. 演奏で「流れ」を意識する
- コードバッキング: コードを演奏する際に、カデンツの部分では終止感を意識して演奏に強弱やニュアンスをつけると、音楽の流れがよりスムーズになります。正格終止ではしっかりと解決する響きを出す、偽終止では少し「おや?」と思わせるようなニュアンスをつける、など。
- アドリブやメロディー: アドリブソロやメロディー作りでも、コード進行のカデンツを意識することが重要です。例えば、正格終止の I コードの上では、しっかりとトニックの音(ハ長調ならド、ミ、ソなど)で終わるフレーズを弾くと、解決感が生まれます。偽終止で vi に行く場合、そのコード(ハ長調ならAm)に合った音を選ぶことで、違和感なく、あるいは意図的に意外性のある響きを作れます。
- アンサンブル: バンドなどで演奏する際、メンバー全員がカデンツの場所と種類を共有していると、より一体感のある演奏ができます。「ここの G7 は C に解決するぞ」「ここは F から C のアーメン終止だね」といった共通認識は、合わせる上で非常に役立ちます。
3. DAWでの実践
- DAWでコードを入力する際、各セクションやフレーズの最後にどんなカデンツを使うか計画的に配置してみましょう。
- MIDIデータでコードを入力したら、カデンツ部分のコードのベロシティ(音の強さ)を調整したり、特定の楽器だけ終止感を強調するようなフレーズを加えたりするのも効果的です。
- 例えば、偽終止で Am に進行する際に、ベースラインを工夫して Am を強調するなど、アレンジのヒントにもなります。
まとめ
カデンツ(終止形)は、音楽に区切りと流れを与える大切な要素です。正格終止、変格終止、偽終止といった基本的なカデンツを理解することで、コード進行の意図や、曲がどのように展開していくのかをより深く理解できるようになります。
これらのカデンツを、作曲で意識的に配置したり、演奏で終止感を表現したりすることで、あなたの音楽はより構成が明確になり、聴き手に意図する印象を効果的に伝えることができるでしょう。
ぜひ、お好きな曲を聴いて、どんなカデンツが使われているか分析してみてください。そして、ご自身の作曲や演奏で様々なカデンツを試して、その響きや効果を体験してみてください。カデンツをマスターすることは、コード進行を使った音楽表現の幅を大きく広げてくれるはずです。