実践!主要三和音(トニック・サブドミナント・ドミナント)でわかるコード進行の仕組み
音楽理論を学び始めたばかりの方にとって、「コード進行」は曲作りの最初の壁のように感じられるかもしれません。たくさんのコードがあって、どう組み合わせれば良いのか分からない、という方もいらっしゃるのではないでしょうか。
でも大丈夫です。コード進行の仕組みを理解するための最初の、そして最も重要なステップは、「主要三和音(しゅようさんわおん)」を理解することです。これら主要三和音は、ほとんどの楽曲で中心的な役割を果たしており、その機能を知ることで、簡単なコード進行を自分で作れるようになります。
この記事では、主要三和音であるトニック、サブドミナント、ドミナントのそれぞれの役割と、それらを組み合わせたコード進行の基本を解説します。音楽制作や演奏にすぐに役立つ実践的なヒントもご紹介しますので、ぜひご自身の音楽に取り入れてみてください。
主要三和音とは?
主要三和音とは、あるキー(調)において特に重要とされる3つのコードのことです。具体的には、そのキーの主音(そのキーの一番中心となる音)から始まるコード、属音(主音から数えて5番目の音)から始まるコード、そして下属音(主音から数えて4番目の音)から始まるコードの三つを指します。
これらにはそれぞれ機能があり、音楽理論ではトニック(T)、ドミナント(D)、サブドミナント(S)と呼ばれています。
例として、最も基本的なキーであるハ長調(Cメジャーキー)で考えてみましょう。
- ハ長調の主音は「ド」(C)です。ここから始まるコードはCメジャーコード(C, E, G)ですね。これがトニック(T)です。
- ハ長調の属音は「ソ」(G)です。ここから始まるコードはGメジャーコード(G, B, D)です。これがドミナント(D)です。
- ハ長調の下属音は「ファ」(F)です。ここから始まるコードはFメジャーコード(F, A, C)です。これがサブドミナント(S)です。
つまり、ハ長調における主要三和音は、C(T)、F(S)、G(D)の3つのメジャーコードということになります。
それぞれの機能が持つ「響き」と「役割」
なぜこの3つのコードが特別なのでしょうか?それは、それぞれが持つ「響き」や「安定感・不安定感」が異なり、コード進行の中で特定の役割を担っているからです。
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トニック(T):安定した響き
- トニックコードは、そのキーの最も安定した響きを持っています。まるで「家」に帰ってきたような、落ち着きと終止感を与えます。
- 曲の始まりや終わりに使われることが多く、聴き手に安心感を与えます。
- CメジャーキーではCコードです。
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サブドミナント(S):少し動きのある響き
- サブドミナントコードは、トニックほど安定していませんが、強い不安定さもありません。例えるなら、「家を出て少し歩き始めた」ような、次にどこかへ向かうようなニュアンスを持っています。
- ドミナントコードへスムーズに繋がる性質があり、コード進行に流れを生み出します。
- CメジャーキーではFコードです。
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ドミナント(D):非常に不安定で、トニックへ「解決」したがる響き
- ドミナントコードは、主要三和音の中で最も不安定な響きを持っています。聴いていると、次に安定したコード(特にトニック)へ進んで落ち着きたい、と感じさせます。この、不安定な響きが安定した響きへ移ることを「解決」と呼びます。
- ドミナントからトニックへの進行(D→T)は、コード進行の最も基本的で力強い終止形となります。まるで「家に帰りたくてたまらない!」という状態から、「ただいま!」と帰宅したような感覚です。
- CメジャーキーではGコードです。よくG7(Gセブンス)として使われることも多く、このセブンスを加えることで不安定さが増し、より強くトニックへ解決したがる性質が生まれます。
実践!主要三和音を使った基本コード進行
これらの機能を理解すれば、簡単なコード進行を組み立てることができます。最も基本的な「終止形(カデンツ)」を見てみましょう。
1. 完全終止 (Perfect Cadence): S → D → T または D → T
最も一般的で、曲の締めくくりによく使われる強力な終止形です。
例(Cメジャーキー):
F → G → C
C → F → G → C
(これはさらに安定したトニックから始まっています)
サブドミナントで少し動きを作り、ドミナントで強い緊張感を生み出し、トニックで安定して終わる、という流れです。まるで物語の起承転結のように、音楽的な流れを感じられます。
2. 変格終止 (Plagal Cadence): S → T
クラシック音楽で教会終止とも呼ばれる形です。ドミナントを含まないため、完全終止ほど強い解決感はありませんが、穏やかで浮遊感のある響きになります。
例(Cメジャーキー):
F → C
賛美歌の終わりや、落ち着いた楽曲の結びによく使われます。「アーメン終止」と呼ばれることもあります。
3. 半終止 (Half Cadence): T または S など → D
ドミナントコードで終わる形です。次に続くコードへの期待感を生み出します。曲の途中で区切りをつけたい場合などに使われます。
例(Cメジャーキー):
C → G
F → G
これらの基本的な終止形を組み合わせたり、繰り返したりすることで、様々なコード進行のパターンを作ることができます。
作曲・演奏での応用例
主要三和音の機能を理解することは、作曲や演奏において非常に役立ちます。
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作曲への応用:
- 簡単な曲作り: まずは主要三和音だけを使ってコード進行を考えてみましょう。例えば、「C → G → Am → F」のような進行は、Cメジャーキーの主要三和音とその代理コード(Am)を組み合わせた非常によくあるパターンですが、ここでもF→G→Cという主要三和音の流れが中心にあります。主要三和音を意識することで、コード進行の「骨組み」が見えてきます。
- メロディー作り: 主要三和音のコードトーン(コードに含まれる音)を意識してメロディーを乗せると、コードとメロディーが自然になじみます。
- 曲の雰囲気: 安定させたい場所にはT、少し展開させたい場所にはS、盛り上げて解決に向かわせたい場所にはDを使う、といったように、曲の展開に合わせて機能を選択することができます。
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演奏への応用:
- 耳コピ・アドリブ: 既存の曲を聴くときに、主要三和音がどこで使われているか意識してみましょう。多くの曲で頻繁に登場していることに気づくはずです。これらのコードの響きを耳で覚えることは、耳コピやアドリブの大きな助けになります。
- バッキング: 主要三和音のコードをしっかり鳴らすことで、曲全体のコード進行の骨組みを支えることができます。
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DAWでの応用:
- 主要三和音を使った簡単なコード進行をMIDIで打ち込んでみましょう。それぞれのコードの響きと、それらが繋がったときの流れを実際に音で確認することが重要です。
- 多くのDAWにはコードトラック機能やコード生成機能があります。主要三和音の機能を知っていれば、それらの機能をより効果的に活用できます。例えば、Cメジャーキーを選び、T-S-D-Tと指定すれば、C-F-G-Cというコードが自動的に生成されます。
まとめ
主要三和音であるトニック(T)、サブドミナント(S)、ドミナント(D)は、コード進行を理解するための最も基本的な要素です。
- トニックは安定
- サブドミナントは動き
- ドミナントは解決への強い指向
この3つの機能とその「響き」を覚えるだけで、コード進行の仕組みがぐっと分かりやすくなります。まずはハ長調(C、F、G)でこれらのコードを実際に楽器で弾いてみたり、DAWで打ち込んで音を聴いてみたりすることから始めてみましょう。
主要三和音の機能を理解することは、その後のダイアトニックコード全体や、より複雑なコード進行、転調などを学んでいく上での確かな土台となります。ぜひ、ご自身の音楽制作や演奏に今日から活かしてみてください。