なぜあの音は「外れる」?コード構成音とアヴォイドノートのやさしい関係
音楽理論を学び始めると、「このコードに対して、このスケールを使うと良い」といった話によく出会うかと思います。実際に試してみると、ほとんどの音はコードと馴染んで気持ちよく聞こえるのに、なぜか特定の音だけが「ぶつかる」「外れて聞こえる」と感じる経験はありませんか?
その「外れて聞こえる音」の正体を知ることが、コードとスケールの関係を深く理解し、メロディーやアドリブ演奏をより意図的にコントロールするための重要な一歩となります。
今回の記事では、その謎を解き明かす鍵となる「コード構成音」と「アヴォイドノート」について、そのやさしい関係性を解説し、どのように作曲や演奏に活かせるのかをご紹介します。
コード構成音とは?
まず、コード構成音についてです。これは非常に基本的な概念ですが、改めて確認しておきましょう。
コード構成音とは、その名の通り、コードを構成している音そのものです。例えば、Cメジャーの三和音(トライアド)であれば、「ド(C)」「ミ(E)」「ソ(G)」の3つの音で構成されています。これらがCメジャーコードの構成音です。
さらに、セブンスコードになると構成音が増えます。Cメジャーセブンスコード(CMaj7)であれば、「ド(C)」「ミ(E)」「ソ(G)」「シ(B)」の4つの音です。
これらのコード構成音は、コードの響きの根幹をなす音であり、スケールの中でこれらの音が含まれていることが、コードとスケールが「合う」と感じられる大きな理由の一つです。メロディーやアドリブでコード構成音を使うと、コードにしっかり馴染み、安定した、心地よい響きが得られます。
アヴォイドノートとは?
次に、本題となるアヴォイドノート(Avoid Note)について解説します。アヴォイドとは「避ける」という意味ですね。
アヴォイドノートとは、特定のコードに対して、同時に鳴らしたり、長く伸ばしたり、強調したりすると、コードの響きと不協和になってしまいやすい音のことを指します。
なぜ不協和になるのでしょうか? 主な理由は、コード構成音のすぐ隣(短2度または長7度)に位置する音であることが多いからです。これらの音が同時に鳴ると、緊張感の高い不協和音となり、コードの安定した響きを損なってしまうことがあります。
具体的な例を見てみましょう。
【例:Cメジャーコード(C, E, G)に対するCメジャースケール(C, D, E, F, G, A, B)】
Cメジャーコードの構成音は C (ルート)、E (長3度)、G (完全5度) です。 Cメジャースケールに含まれる音を、Cメジャーコードの構成音と照らし合わせてみましょう。
- C (ルート): コード構成音です。
- D (長2度): Cの長2度上の音です。
- E (長3度): コード構成音です。
- F (完全4度): Eの短2度上の音です。また、Cから見ると完全4度上の音です。このFは、Cメジャーコードのルート音Cから完全4度の関係にあり、さらにコード構成音のEから短2度の関係にあります。Cメジャーコードに対して、このFの音を同時に鳴らしたり、長く伸ばしたりすると、多くの場合、響きがぶつかり、不安定に聞こえます。これが、Cメジャーコードに対するアヴォイドノートの一つです。
- G (完全5度): コード構成音です。
- A (長6度): Gの長2度上の音です。
- B (長7度): Cの長7度上の音です。Eから見ると完全5度、Gから見ると長3度です。これはCMaj7の構成音にもなる音で、アヴォイドノートではありません。
この例では、Cメジャーコードに対するアヴォイドノートはF(完全4度)となります。スケール全体で見ると、CメジャースケールはCメジャーコードに合うスケールですが、含まれる音の中にはコードとぶつかりやすい音(アヴォイドノート)も存在するのです。
アヴォイドノートは、コードの種類(メジャー、マイナー、セブンスなど)や、基準となる音(ルート音からの度数)によって変化します。
アヴォイドノートは「絶対に使えない音」ではない
アヴォイドノートという名前から「絶対に使ってはいけない音」だと思ってしまうかもしれませんが、そうではありません。アヴォイドノートは、「同時に鳴らしたり、長く伸ばしたり、強調したりすることを避けるべき音」という意味合いが強いです。
例えば、メロディーの中を通り過ぎる経過音(パッシングトーン)や、他の音に解決するための倚音(してん)のような非和声音として短く使う分には、逆に音楽に動きや表情を与える効果があります。意図的に強い不協和を狙うモダンな音楽などでは、あえてアヴォイドノートを強調することもあります。
要は、その音をどのように使うかが重要であり、アヴォイドノートの概念は「この音をどう使うとどのような響きになるかを理解するためのもの」と捉えるのが実践的です。
実践への応用:作曲や演奏に活かす方法
コード構成音とアヴォイドノートの概念は、あなたの音楽制作や演奏にすぐに役立ちます。
-
メロディー作りで安定感と意図をコントロールする
- コード構成音を中心に: メロディーの重要な音(長い音符、フレーズの終わり、サビの聴かせどころなど)を、その時のコードの構成音にすると、非常に安定した、コードに馴染むメロディーになります。聴き手が「気持ち良い」と感じやすい響きです。
- アヴォイドノートの使い方: アヴォイドノートを意識することで、「この音は長く伸ばすとぶつかるから、経過音としてサッと通すだけにしよう」といった判断ができます。逆に、あえてアヴォイドノートを少し長めに使って、次にコード構成音に解決させることで、緊張感から解放されるドラマチックな効果を狙うことも可能です。
- DAWでの確認: 作成したメロディーをDAWで再生しながら、コードとの響きを確認してみましょう。特定の音で違和感がある場合、それがアヴォイドノートである可能性が高いです。その音を短くしたり、前後の音で解決させたり、別の音に変えたりすることで、響きを調整できます。
-
スケール選びの理解を深める
- 「このコードに合うスケールはどれ?」と考える際に、スケールに含まれる音が、そのコードのアヴォイドノートをどれだけ含んでいるか、という視点も重要になります。
- 例えば、ドミナントセブンスコード(G7など)に対してミクソリディアンスケール(G, A, B, C, D, E, F)がよく使われますが、これはスケールの中にドミナントセブンスコード(G, B, D, F)の構成音が全て含まれており、かつ主要なアヴォイドノート(G7に対する完全4度 C)の扱いやすさ(ミクソリディアンではCはルートからの完全4度で、構成音Bとは長2度離れているため比較的使いやすい、一方でリディアンドミナントの#4は全く性質が異なる)など、コードとの親和性が高いからです。
- この概念を知っておくと、「なぜこのスケールはこのコードに合うのか」がより深く理解できるようになり、自信を持ってスケールを選べるようになります。
-
アドリブ演奏のフレーズ構築に活かす
- コードが鳴っている間に、頭の中でそのコードの構成音とアヴォイドノートを意識する訓練をすると、フレーズが格段に安定します。
- 特に、フレーズの区切りや、強調したい部分でコード構成音を鳴らすように心がけると、聴き手に「キメている」という印象を与えやすくなります。
- 速いフレーズの中でアヴォイドノートが通過する分には問題ないことが多いですが、ロングトーンにする音は、そのコードの構成音や、テンションノート(コード構成音ではないがコードに馴染む音)を選ぶようにすると良いでしょう。
-
ボイシングの響きを調整する
- 複数の音を同時に鳴らすコードのボイシングにおいても、アヴォイドノートの概念は役立ちます。
- 特に、アヴォイドノートとコード構成音が短2度や長7度で隣接するような音の並びは、強い不協和を生み出しやすく、意図しない場合は避ける方が無難です。ピアノやギターでコードを弾く際に、どの音をどう配置するか(ボイシング)を考える上で、この知識が役立ちます。
まとめ
今回は、コード構成音とアヴォイドノートという概念について解説しました。
- コード構成音: コードの土台となる音であり、メロディーや演奏に安定感を与えます。
- アヴォイドノート: 特定のコードに対して、同時に鳴らすとぶつかりやすい音。主にコード構成音のすぐ隣に位置することが多いです。ただし、使い方次第で効果的な響きにもなります。
これらの概念を理解することで、「なぜこの音がコードに合う(または合わない)のか」が論理的に把握できるようになります。単に「このスケールを使えば良い」という知識だけでなく、その裏にある理由を知ることで、より深く、より自由に音楽を扱えるようになるでしょう。
ぜひ、ご自身の作曲や楽器演奏の中で、コード構成音とアヴォイドノートを意識してみてください。きっと、いつも使っているスケールやコード進行から、新しい発見や表現の可能性が見えてくるはずです。